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インタビュー

インタビュー

株式会社ニューロスペース

株式会社ニューロスペース 小柳津 篤氏
株式会社ニューロスペース 小林孝徳氏

スムーズビズに参加して、テレワークによる在宅勤務、オフピーク通勤など多様な働き方を実践していくに当たっては、日常と違う生活リズムになる場合もあるため、適切に睡眠をとることも重要になります。

また、最近は、従業員の健康を経営的視点から考え、戦略的に実施する「健康経営」がクローズアップされる中、睡眠とビジネスの関係について着目し、従業員の睡眠改善に取り組む企業も増えています。

そこで、パフォーマンスを最大化する睡眠のとり方から、オフピーク通勤をする際の睡眠テクニック、仮眠のテクニックまで、睡眠で働き方を変えるための話について、睡眠テクノロジーのベンチャー企業である株式会社ニューロスペースの代表取締役社長、小林孝徳氏にうかがいました。

ニューロスペース社について

テクノロジーで人々の睡眠課題を解決するSleepTech(スリープテック)事業を展開する企業です。企業向けの睡眠改善プログラムを国内大手企業などに提供し、企業の健康経営と生産性最大化を支援する業務や、睡眠に関する共同研究開発も行っています。

これまで、70社、延べ1万人以上の睡眠改善に取り組んできましたが、蓄積してきた知見を活かして、従業員の睡眠課題に起因するパフォーマンス低下を解消し、企業の働き方改革・健康経営推進に貢献するとともに、睡眠に関する社会の文化を変えることを目指しています。

睡眠とビジネスの関係について

2018年のOECDの調査では、日本人の睡眠時間は世界で最も短いという結果になってしまいました。従前の調査までは、世界で2番目に短いという結果でした。

また、当社で行った2018年度「企業の睡眠負債」実態調査でも、ビジネスパーソンの7割以上が睡眠に不満を抱えていて、自身が考える理想の睡眠時間(平均7.37時間)と実際の睡眠時間(平均6.18時間)には、1.2時間の差が生じていることが明らかになっています。睡眠不足の理由トップ3は、仕事による帰宅の遅さ、ベッドでのスマホ、通勤時間、となっています。

また、ビジネスパーソンのうち、約8割が仕事中の眠気を感じており、うち約3割が、週3回以上〜毎日と頻繁に感じています。仕事中も眠気を感じることについては、約6割が生産性への影響があると回答しました。

本質的な睡眠課題の解決を目指していくためには、個人や家庭の取組だけでは限界があり、睡眠を妨げる要因の大半を占める「企業における働き方」を変えて行くことが必要です。

「睡眠資本」の考え方について

企業が事業活動するためにお金や設備といった資本が必要です。さらに社員自身も大切な資本であり、その健康を維持する睡眠も重要な資本です。

そのように考えると、睡眠をとるのは社員個人ですが、睡眠のメカニズムに関する正しい知識を得て、実践することは、企業・社員の双方にとって非常に重要です。睡眠はビジネス、社会を大きく変える可能性を秘めています。

これまで睡眠は、プライベートなことで会社が関与する部分ではないという認識でした。しかし、今後は、社員が必要な睡眠を取れている会社であることが社会的責任になる可能性が十分あります。社員の睡眠を重視する会社に対して、社会からの信頼や安心感、更には企業価値が上がる、「睡眠資本主義」の考え方が将来的に導入されるべきだと考えています。

ちなみに、ニューロスペース社では、社員が十分に睡眠をとって仕事をしてもらうため、原則18時以降は仕事をしないことを推奨していますし、私自身も含めて、子育て中の社員も多いため、テレワークで在宅勤務をすることも自由です。ネットがつながっていればどこでも仕事ができますし、公園やカフェの方が、クリエイティブな仕事ができるようなケースもあります。

社会的な睡眠への関心の高まりについて

一方、社会全体では、睡眠と仕事の関係について関心が高まっています。

2015年頃に、従業員にシフト勤務者が多い株式会社吉野家から、睡眠セミナーの依頼を受けたことを契機に問合せが増えました。その頃から、従業員の睡眠改善に取り組む企業が増えました。

夜に配送業務を行う物流企業やシフト勤務を行う工場などからの相談も多いですが、夜勤についても、正しいシフトを組んで実践すれば大丈夫です。人間の体のサーカディアンリズム(circadian rhythm)、いわゆる体内時計のメカニズムに沿ったものとし、イレギュラーな影響を与えないようにすることが大事です。

睡眠覚醒リズムの図

パフォーマンス向上につながる睡眠の大原則

サーカディアンリズムがイレギュラーにならないようにするのが、睡眠の質を向上させる鍵です。起床して光を一定時間浴びると、体内時計がリセットされます。起きる時間を一定にして、起床後に光を浴びることが大原則です。

通常、このリセットから、約7時間後と約15時間後に眠気を感じるため、このリズムを踏まえた働き方の実践や、勤務シフトの作成ができれば非常に望ましいです。

また、睡眠開始時間が早くなったり遅くなったりする場合、どうすれば良いでしょうか。サーカディアンリズムのリセット時間を考え、起床時間を一定に保つことが重要です。最初は難しいかもしれませんが、徐々に就寝時間と起床時間を調整して、起床時間を一定に保つようにするのがコツです。

睡眠不足がもたらす影響について

睡眠時間のうち、主に前半の3時間程度は脳の休息に充てられ、後半の3~4時間は心の休息に充てられます。そのため、残業等で睡眠時間が短くなってしまうと、心の休息が十分に行われづらくなってしまいます。嫌な事を忘れさせ、記憶を整理する時間が不足してしまうと、ストレスを整理する時間も不十分になります。

睡眠時間が不足すると、脳の扁桃体が過剰反応を示し、怒りやすく、他責思考になる傾向が明らかになっています。また、頭頂葉(事実に基づいて判断をする部分)の働きが低下し、ケアレスミスが多発することも報告されています。

うつ病や免疫力低下などの健康状態の悪化にもつながってしまいますし、中長期的には生活習慣病や認知症の原因にもなっていることが分かってきています。

また、翌朝、いつもより早く出社するのであれば、早く帰宅し、早く就寝することは、パフォーマンスを最大に発揮するため大切なことです。

睡眠の役割の図

週末の寝だめについて

「平日に睡眠時間が確保できない場合における週末の寝だめですが、普段の起床時間を過ぎて寝続けてしまうと、週明けに身体への負担が大きくなります。

起床時間を遅くしたい時も、1~2時間程度にとどめましょう。平日は午前6時に起きているなら、週末は遅くても午前8時までには起きて、一定時間光を浴びましょう。

サーカディアンリズムの乱れは、週明けの身体への負担が大きくなり、月曜日を憂鬱な気分で迎えてしまうブルーマンデーの原因にもなってしまいます。週末も普段通りの時間に一度起きることをお勧めします。一旦起きて、光を浴びていつもと同じリズムを作ってから寝るのも一案です。

オフピーク通勤と睡眠の関係、睡眠タイプの個人差について

「夏は、日の出が早いので、早めのオフピーク通勤に向いています。一方、冬は、遅めの出勤をするのも合理的な選択肢です。

一方、自分の睡眠のタイプを知ることも大切です。いわゆる「朝型、夜型、中間型」というクロノタイプです。自分のタイプは、アンケートに回答することである程度把握できます(ミュンヘンクロノタイプ質問紙(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター))

自分のタイプが少々夜型であるなら、寝る時間と起きる時間を少し遅らせることで、睡眠タイプを尊重した生活、仕事ができるようになります。睡眠タイプは遺伝子レベルで決まっていると言われていますが、統計的に全体の約3割は、超朝型か朝型です。

睡眠タイプを考慮せず、早く出勤するオフピーク通勤を実施しても、全ての人にとって良い働き方にはなるとは限りません。

例えば、超夜型の人が、早寝早起きして早朝出勤することは、拷問に近くなってしまいますし、残念なことに、ただ身体のだるさや眠気を感じるだけで、逆効果になる恐れもあります。

一人ひとりの睡眠タイプが異なるため、最適な「睡眠資本」が発揮できる、睡眠の多様性が認められるのは望ましいことです。遅い時間にシフトしたオフピーク通勤が選択肢としてあれば、会社にとっても社員にとっても喜ばしいことです。

体内時計のリズムも人それぞれの図

攻めの眠り(パワーナップ)で生産性向上へ

「パワーナップとは、15~30分程度の短い仮眠のことで、サーカディアンリズムで眠気を示す時間帯の前に仮眠を取ることは非常に効果的です。また、毎日7時間から8時間の睡眠時間を確保するのが難しいようであれば、それを仮眠で補うこともできます。

15~30分の仮眠は、眠気の解消に加えて、午後の仕事の生産性、集中力、判断力を向上させます。圧倒的にアップしたという事例報告も複数あります。

タイミングとしては、起床から6時間後に、かつ眠気がピークを迎える14時頃までに、仮眠をとることが効果的です。また、本睡眠(夜間の良質な睡眠)に影響しないよう、深い睡眠を避けるために時間を30分以内に抑えて、姿勢についても、完全に横にならないことが大事です。カフェインを仮眠前に摂取するのも、寝覚めをよくします。

また、例えば23時に就寝するなら、16時以降の仮眠を取らない方が本睡眠への影響を防げます。昼間起きていた時間が長いほど、眠る力が蓄積され、夜間の良質な睡眠がどれだけ取れるかが変わってきます(「睡眠圧力」と表現されます。)。

日本では仮眠を推奨する企業はまだ少ないですが、三菱地所株式会社、東急不動産株式会社など、オフィスに仮眠室を作る企業も出てきました。今後、仮眠の推奨が文化として根付いていくなら、大きなインパクトになります。

戦略的なパワーナップ法の図

戦略的に睡眠圧をコントロールの図


スムーズビズに期待すること

スムーズビズで、企業の働き方改革を推進し、快適な通勤環境を実現していくことは、一人ひとりの睡眠の尊重、多様な人材が活躍できる社会にもつながります。

ぜひ、この機会に、正しい睡眠の知識を理解し、実践しながら、スムーズビズに取り組んでみませんか。

資料出典:株式会社ニューロスペース