平成30年度時差Biz推進賞
ワークスタイル部門受賞
シックス・アパート株式会社
受賞理由
全従業員がオフィスへは必要な時だけ出社すればOK。普段の勤務場所は業務に支障のない範囲で自由とする制度「SAWS(Six Apart Working Style)」を実践。育児・介護といった条件に限らず、趣味のためであっても自由に働く場所や時間を調整できることが大きなポイントで、社員からは好評だ。この制度を活かして地方に移住した社員もいる。制度の根幹となっているのは、「人生を楽しめていれば、仕事も充実する」というポリシー。この制度を自社だけでなく社外にも展開し、青森県と共にテレワークを最大限に活用した地方創生の取組も開始している。
2003年に外資系企業の日本法人としてスタートしたシックス・アパートは、ウェブサイトの構築・管理のための技術開発と関連製品やサービス、コンサルテーションを提供している。外資系企業だったこともあり、海外など時差や距離がある場所とやり取りをして仕事を進めていくことには慣れていた。2016年7月にEBO(従業員買収)によって独立後、「SAWS(Six Apart Working Style)」を制度化する際も、全社員の合意のもとつつがなく着地した。そこに根付いているのは、「全社員の信頼関係」である。そんな企業風土を持つ同社の時差Bizの取組について、古賀代表取締役と平田取締役にお話を伺った。
時差Bizに参加する目的
社員全員が必要な時のみ出社すればよいという、究極のテレワーク制度といえる「SAWS」を導入している同社だが、設立時は定時に出社して仕事をするという一般的なワークスタイルであった。そんな同社にとって働き方改革の大きな転機となったのが、東日本大震災だった。震災後、政府から企業に、夏季のピーク時間帯に15%の電力削減を目指すという通達があったときだ。
「中小企業はあくまでも努力目標でしたが、当時は大きな企業のグループでしたので、何かできることはないかと社員で話し合い、毎週水曜日に在宅勤務をするチャレンジをすることにしたのです」(古賀代表取締役)
週の5営業日のうち1日閉めれば、単純計算で20%の電力削減できるという考えだったが、その挑戦を始めるに当たっては、情報漏えいなどが起きないようにセキュリティを強化するなど、しっかりと準備を行った。週1回だったが、7月、8月、9月の暑い時期に通勤がないことが、社員にはとても好評で「テレワークを続けたい」という声が多くあがった。そして、2016年の独立を機に「SAWS」の導入を決めたのである。そんな同社が「時差Biz」を知ったのは、働き方改革に関して情報収集している時だという。
「オフピーク通勤を推奨する東京都の取組に賛同し、時差Bizへ参加しました」(平田取締役)
具体的な取組内容
「SAWS」の大きな特徴は、場所も時間も社員に任せている点である。在宅勤務に限らず、カフェやサテライトオフィスなど、どこで働いても構わない。もちろん会社の方が集中できるというのであれば会社でもOKだ。また、仕事時間や場所も育児や介護に限らず、趣味などの理由でも自由に自分で決めることができる。会議などが必要な場合は午後から出社するといったスタイルで、混雑する時間帯に電車に乗ることはほとんどなくなったそうだ。さらには、この制度を導入したことで、業務委託で仕事を依頼していた長野県在住者を社員として採用することができたという。
「この制度を知った他社の人からは様々な労務管理に関する質問をいただきます。もちろん労務管理は行っていますが、社員を信じて自己裁量に任せた方がうまくいきます。この制度の骨幹は“信頼”です」(平田取締役)
また、出社しないことで余剰になった通勤交通費は、自宅の光熱費や通信費、カフェ代などに当てるためのテレワーク手当(一律1.5万円)として支給している。もちろん出社した際の交通費も支給。仕事の性質上、お客様の都合で夜間メンテナンスや、土日でないとシステム更新ができない場合は、もちろんきちんと深夜残業手当の支給や代休取得などの対応を行っている。
時差Bizに期待すること
「楽しんで仕事をしていれば生活も充実する」というのが同社の基本であり、「SAWS」を実践することで目指しているのは、「社員一人ひとりの幸せ」である。例えば、制度導入前は地方にある実家に帰省するために休暇を取る必要があった。しかし、新幹線での移動中や実家にて仕事をするのであれば、「SAWS」を活用して普段通りに勤務をすることが可能だ。また、働く時間を調整できるので、子どもの学校行事や街のイベントなどへも参加でき、地域とのつながりを深めていくことができる。社員の中には副業として地元の地域活性化に貢献している人もいる。同社では会社としても地域活性化の取組を始めている。その1つが、青森県と協同で開始した「SAWS@青森」である。
「地方では企業誘致の課題がありますが、支社を出す、本社を移転するというのは大変で難しい点が多々あります。しかし、現地に高技能なテレワーカーがいれば可能なことがたくさん出てきます」(古賀代表取締役)
同社は青森で高校生対象のWebの構築の講座を開催するなど、高技能テレワーカーの育成に取り組んでいる。他企業や他の自治体などからも問い合わせが増えており、青森以外でも地方創生を展開していく考えだ。また、同社が進める「SAWS」は、災害時にも事業継続をはかるBCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)という観点からも大きな意味を持つという。
「最近の日本は大きな台風や地震が多いので、大企業も含めた多くの企業に当社のような制度が広まることを期待しています」(古賀代表取締役)
コミュニケーションの場として社員に好評の「ランチ会」
「SAWS」を導入している同社は、社員全員が出社して顔を合せる機会はほとんどない。そんな同社で好評なのが「ランチ会」だ。「ランチ会」は定時出社をしていた時に始まったもので、スタート時は社員それぞれがおかずを持ち寄り食卓を囲んでいた。現在は料理が得意な社員が作ってくる料理をおかずに、みんなでご飯を食べるスタイルだ。このランチ会は、農林水産省発行の「食育白書」やテレビ番組などにも取り上げられている。「SAWS」を導入する際に「ランチ会」はどうするかという話になったが、継続させていきたいという声が多く、定期的に開催している。普段顔を合せない分、「ランチ会」ではさまざまな話題が飛び交っており、普段は離れて働く社員のコミュニケーション活性の場として、「ランチ会」は重要な役割を担っているのである。この他、月1回社員総会を行うなど、社員全員がテレワークだからこそ、社員全員で顔を合せるコミュニケーションの場も大切にしている。今後も社員からコミュニケーションに関しての意見があれば、どんどん取り入れていく考えだ。