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インタビュー

インタビュー

株式会社スリーエス

株式会社スリーエス 吉田秀樹氏
株式会社スリーエス 吉田秀樹氏

「住んでいる人も、訪れる人も、より快適な東京へ」をキャッチフレーズに進めているスムーズビズは、東京2020大会期間中の交通混雑緩和はもとより、新しいワークスタイルや企業活動の東京モデルの確立を目指しています。

今回は、中小企業の製造業分野で、テレワークを積極的に活用している株式会社スリーエスの代表取締役社長 吉田秀樹氏に、テレワーク導入の経緯、社内の反応、東京2020大会時に向けた対応などについて、お話をうかがいました。

株式会社スリーエスの事業内容

株式会社 スリーエスは、創業33年を迎える産業用精密機器「バルブポジショナ」の製造に特化した国内唯一の会社です。ポジショナはバルブの動きを制御することで、配管中の液体や気体などの流体を精密に調整する機器です。発電所や石油化学などの各種プラントにおいては、ゼロカンマ1%単位でのバルブ開度の調整が求められることもあります。高品質・高性能の当社の機器は多くのプラントで使用されています。近年は、海外向けの需要が増えていますが、機器は全て東京都北区の自社工場で製造しています。

従業員は65名で、半数が工場での生産業務を、残りの半数がオフィスで総務、営業、開発などの仕事をしています。

本社の外観
本社の外観
バルブポジショナの一つ「スマートポジショナ」
バルブポジショナの一つ「スマートポジショナ」

テレワーク導入のきっかけ

当社の取引先は、全国各地及び海外に点在しており、営業担当者は頻繁に出張します。一週間出張して帰社すると、机にはお客様からの見積もり依頼などの書類が山積み状態となります。営業担当者の仕事が滞ると、お客様をお待たせするだけでなく、その後の事務処理や製造業務の時間が圧迫され、ミスも発生しやすくなります。このような状態を解決して、業務を効率化しようとしたことが、結果的にテレワーク導入につながりました。

まずは、2011年、出張先でも普段のオフィスと同じ仕事をできる状態にすることから始めました。営業担当者全員にノートパソコンを貸与し、ビジネスチャットで情報を集約し、続いて外出先での承認機能も付与しました。問題点を徐々に解決していく過程で、出張先でのテレワーク環境が整備されていきました。

その後、2020年東京大会を契機にテレワークが注目されるようになり、都が推進するなら当社も協力しようと思ったところ、既に自社の取組が進んでいることに気付きました。テレワークを始めていた営業担当に限らず、「できる人は皆やろう」と社長自ら旗を振り、制度化、利用拡大につながりました。

ゼロから「テレワークを推進しよう」としたのではなく、会社の課題に向き合い、少しずつ効率化を進めた結果がテレワーク環境の整備に繋がったわけです。

社内でのテレワークの広がり

2012年の社長就任当時、社員数が増えてオフィスが手狭になりました。そこで、フリーアドレスを導入したところ、机の引出しの書類はほとんど必要ないことが判明しました。同時に、「フリーアドレスならデスクトップ型よりノート型の方が適している」と、全員にノート型PCを支給しました。その結果、仕事の内容や本人の状況によって、必ずしも出社をしなくても業務を遂行できる環境が整っていきました。

フリーアドレス、ノート型PCの貸与も、それ自体が目的ではなく、限られたスペースを有効活用しようと、少しずつ問題を解きほぐしてきた結果、テレワーク拡大の基盤づくりにつながりました。

今は、貸与されたノート型PCを持って帰宅しても良いですし、個人のパソコンからでも会社のサーバーに安全にアクセスできるセキュリティー環境も整えています。毎週月曜日に西日本の営業所、テレワーク勤務者と合同でWeb朝礼を実施するなど、会議にもスカイプを活用して出席できますし、仕事の8割が在宅で可能な社員もいます。

web朝礼の様子
web朝礼の様子
web朝礼の様子(在宅での参加)
web朝礼の様子(在宅での参加)

テレワークに会社が救われる

女性社員が、出産や結婚などの理由で退職してしまうのは会社にとって大きな痛手です。2015年頃、重要な戦力である女性社員が、家庭の事情で神奈川県の南東部に転居することになりました。本人は仕事を辞めることなど考えていませんでしたが、毎日の通勤時間が往復4時間となり、1年も経つと通勤の負担が明らかに分かるようになりました。この状況に疑問を感じましたが、ただ単に「無理するな」と伝えるのは、結果的に「退職」を促すことになりかねません。貴重な人材を失うことなく、且つ本人の負担を軽減するにはどうした良いかを熟慮した結果、「週1~2回の出社で、残りの日は自宅でのテレワークにする」という話に行きつきました。会社は既にテレワーク環境が整っており、本人も「是非チャレンジしたい」と積極的に取り組んでくれました。彼女は現在も在宅勤務を続けながら、大いに活躍してくれています。

また、営業の女性社員が、「祖母を自宅で看る母親をサポートしたい」という理由で、突然休職の意向を示してきたことがありました。具体的に話を聞くと、「サポートは常時ではなく相当の空き時間がある」ことが分かり、また本人も「できれば休職はしたくない」とのことでした。本人とマネージャーが協議をし、「週2回の出社で、残りは在宅勤務」となりました。金曜の朝に申出があった中、午後にはこの決定をし、翌週から開始という速やかな決定となりました。「母親のサポート」と「仕事」を両立することができるようになった彼女は、大変喜んでくれました。

誰でも好きな時にテレワーク

育児のため、早い時間に退社する社員もいますが、当社では、在宅でのテレワークを時間単位で、その都度、実施できるようにしています。家族の病気で看護が必要な場合など、1日休むほどではないが出社できないような場合に、当日の朝に在宅勤務を選択することができ、社員の3割程度が、その都度利用の在宅でのテレワークを実施しています。

当社では、「テレワーク者数は何名以上」という目標設定をするのではなく、「テレワークは誰でも好きな時に自由に選択できる」ということを周知しています。テレワークを必要としない社員も含めてトライアルしたこともありますが、快適さを感じる社員がいる一方、「家では仕事をしたくない」という社員もいました。あくまで、社員各自の意思を尊重しています。

生産性にもたらす影響

出発点は営業担当者の業務効率化であり、効果は如実に表れています。見積もりの作成時期が遅れれば、それだけ出荷が遅れ、収益は先延ばしになります。特に競争の激しい海外との取引においては、スピードが収益と直結してきます。出張先でのテレワーク環境整備は、会社の収益力向上に繋がっています。また、先ほどお伝えしたように、生活の変化による社員の流出の抑止にもつながっています

災害時にも使えるテレワーク

スリーエスの3つのSはSafety、Speed、Serviceです。中でも大切なお客様の安全であるSafetyを最も大事にしており、そのために徹底した品質管理を行っています。そして、当社は社員のSafetyも大切にしています。

先日9月9日は、台風15号の影響で、首都圏で鉄道の計画運休が行われました。頑張って出社しようとした多くの人が駅で長時間待たされ、やっと電車に乗れても、それは超満員かつ徐行運転となることが多いです。会社に到着するまでに多大なストレスを受けるばかりでなく、過度な人混みによって怪我をする恐れもあります。そのような事態において、無理に出社することは理に適っておらず、当社では、有事の際は状況が落ち着くのを待ってから出社したり、場合によってはテレワークに切り替えるように会社全体に常にアナウンスしています。

今回の台風では交通障害が発生することは事前に分かっていましたので、前もって全社員に「無理な出社はしないこと」という連絡を改めて入れました。各自が上司に逐次連絡を入れながら、なるべく安全でストレスのない状態で電車に乗り、出社をしました。結果的に「テレワークへの切り替え」を選んだ社員はいませんでしたが、「いつでもテレワークに切り替えられる」という安心感が会社全体の余裕を生み、皆が焦らず落ち着いて安全な状態で出勤したことに繋がりました。

このような余裕を持った安全な対応ができるのは、日頃から会社としてテレワークを取り入れているからです。「会社に行かないと仕事にならない」という人ばかりであれば、仕事をするには無理してでも出社しなくてはいけません。そうでなければ、急遽休みを取らなくてはいけなくなります。スリーエスでは、当日朝に申請して「臨時テレワーク」に切り替えることも柔軟に受け入れる体制になっていますので、社員は「場合によってはテレワークに切り替える」という保険を掛けながら、安心して朝の状況を見守ることができるのです。

スリーエス社の経営理念

東京2020大会に向けて

来年の東京2020大会期間中は、会社全体として休みにしたいところですが、お客様との関係もあり、なかなかそうもいきません。期間中も業務を行うのであれば、予想される交通混雑などのリスクに対しては、万全に準備しなくてはなりません。このことは、BCP(事業継続計画)にも関連してきますので、会社全体で真剣に対策を考えています。

期間中の部品の入荷や製品の出荷は滞ることが予想されるため、部品は事前に多めに購入する予定です。また、製品の納入先には、「前倒しの購入」や「計画的な納期遅延」に関する協力依頼の働きかけを始めています。大会期間中の交通混雑緩和に向けた取組の必要性は相応に周知されているため、お客様からも一定のご協力を得られるものと考えています。

一方、生産現場でのテレワークはまだ少ない状況です。「作業者サポートのため、生産管理担当者は現場にいるべきである」という根強い考えがあるのです。しかし、業務の整理と効率化を徹底すれば、殆どの仕事は電話やスカイプなどで対応できるはずです。マネージャーや担当者たちもその考えには理解を示してくれており、現在真剣に協議を進めているところです。

オフピーク通勤については、特に制度化はしませんが、テレワークの活用によって実質対応可能です。大会期間中の出勤抑制の対応については、「出勤しなくて良い日」という「出勤が前提」の考え方ではなく、「どうしても出勤しなければならない日はいつなのか」と「在宅勤務が前提」の方針で考えるように指示しています。

テレワークの定着・拡大に向けて

経営トップが、「テレワークを推進したい」、「自分も積極的にテレワークをしたい」と本気で思うかどうかが重要だと思います。幣社の取り組みがどの会社でも通用するわけではありませんが、トップの勇気ある決断や行動の重要性は共通するのではないかと思います。

在宅勤務をする吉田社長
在宅勤務をする吉田社長

私はモットーとして、「仕事というものは、それ自体そもそも大変なのだから、せめて仕事をする環境は快適にしたい」と常に思っています。「快適な環境で仕事をすることは、集中力向上にも繋がる非常に合理的なこと」だという認識が、もっと広まっても良いのにと思います。「朝早くから夜遅くまで職場にいることが善」というような精神論は、非効率と不幸を生むだけです。特に、「トップ自らが朝早く出社し、遅くまで働き、それを自慢する」ようなことは止めた方が良いと思います。社長も社員も不眠不休で仕事をしないと会社が成り立たないのであれば別ですが。少なくとも現代は、テレワークを含めた業務の効率化の手段が豊富ですから、トップが率先して柔軟に検討するべきだと思います。

テレワーク導入当初は、社員がテレワーク翌日に同僚に謝る姿を見たこともありますが、今ではそのようなことはありません。「明日は我が身」と、お互いに理解協力し合うことが大切です。

私自身、テレワークを積極的に活用しており、最近は多くて週3日の出社です。現在、3人の娘がおり、上の2人は小学生で三女はまだ6ヶ月の赤ちゃんです。テレワークの日は、上の子たちと一緒に6時に起きて朝食を共にし、7時に彼女たちを見送ります。その後、ニュースを読んだりメールをチェックしたりと仕事の準備をしていると三女が泣いて起き出すので、オムツを替えてあやします。そして、朝の家事を一通り終えた妻に三女を任せ、仕事に取り掛かります。子供たちと会話をし、赤ちゃんの面倒を見て、妻と協力し合う。私のテレワークの日は、充実した家族との時間から一日が始まります。仕事へのやる気や集中力も高まります。

スムーズビズに期待すること

会社は利益を上げる責任を負っているので、社長のレベル・社員のレベルで最大のパフォーマンスが発揮できるようにすべきです。その中で、テレワークは育児、介護者向け専用の制度ではなく、誰もが活用できる選択肢と捉えるべきです。

また、テレワークは「0」か「1」か、で考えないことが大切です。週1回、月1回の実施でも十分です。皆が少しずつ取り組むことができれば、例えば満員電車の解消にもつながります。時差Bizでオフピーク通勤をするため、自宅でメールチェックをした後に、出社というテレワークも良いですし、早く出社し、昼過ぎには帰宅してテレワークでも良いと思います。一日のどこかでテレワークをするといった柔軟な働き方が定着すれば、交通混雑緩和にもつながると考えます。

テレワークも含めて、何事も体感してみることが大切です。それこそ、チャレンジ!だと思います。

※「都内企業に学ぶテレワーク実践事例集」には、スリーエス社以外にも様々なテレワーク導入の事例が掲載されています。テレワーク推進の一助に是非ご活用ください。

※都内の中堅・中小企業の皆様がテレワークを導入する際の都の支援制度について、こちら のページでご紹介しています。是非ご覧ください。

資料出典:株式会社スリーエス