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インタビュー

東京2020大会期間中のTDMの取組等に関するインタビュー

株式会社山櫻

(2021年11月16日インタビュー実施)

 オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)の開催を見据えて取組の検討を開始しました。

 物流センターの所在地が大会会場等に近い江東区の新木場ということで、東京2020大会の影響を考慮する必要があったため、ロジスティックス部門が2020TDM推進プロジェクトからの情報を得て、他部門にも共有するように進めていきました。

 取組が加速した要因は新型コロナウイルスの感染拡大で、社員を守る意味でも出社する人数を抑え、通勤時における人との接触を減らすようにしました。

人の流れに関する取組――――――――

■商品を扱う部門も物流量を見ながら計画的に取組を実施

 IT担当部署が、個人が所有するパソコンから会社のパソコンにリモートアクセスできるように設定しました。数週間単位で全社員の機器を設定し、セキュリティもチェックする必要があったため、担当していた部署は非常に大変だったと思います。

 これにより、リモートアクセスが可能な部門はテレワークが可能となりました。

 新木場にある物流センターには4つの部署があります。現場で商品を取り扱うロジスティックス部門では、出社しなければ仕事にならないため出社率は数%減に留まりましたが、その他の3部門では、出社率を4~5割程度削減することができました。

 ロジスティックス部門では、物流量が少ない時期には計画的に出社人数を減らすように検討・実施していました。

 また、8:00~10:30の時間帯で、物量に合わせて必要な人員の割振りを行い、調整しながらオフピーク通勤を行いました。

■社内外のオンライン会議を推進

 社内においては、オンライン会議を拠点間で実施しており、今後も継続していく予定です。

 それまでは、打合せのため本社に行く必要がありましたが、オンライン会議が根付き、移動しなくても良くなりました。

 社外については、新型コロナの流行により、来社を控えてもらう必要があったため、見積案件等で現場を見なくても実施できる打合せはオンラインに切り替えました。運搬や仕分け、保管を担うマテリアルハンドリング業者等は、現場を見るため対面でという申し出もありましたが、社外に対しても積極的にオンライン会議を使用する流れになっていきました。

■「健康経営戦略」に基づき計画的な休暇取得を促進

 自社には「健康経営戦略」というものがあり、東京2020大会より前から、計画的な有給休暇取得の促進をしていました。計画的な休暇取得に対しては、これまで社内では意識があまり高くなかったため、前年度よりは数日でも多く取るように、目標を決めて取得するよう推進しています。

 東京2020大会期間中は一斉休業とし、9連休の大型連休となりました。

 2021年も、予定されていた開催期間を一斉休業としていました。

■書類等の電子化の推進

 自社では、世の中の流れを踏まえて電子化を進めており、取組が可能なものから順に始めています。

 社内で完結する稟議書や備品、什器の購入等に関する申請については、オンライン化が進んでいます。

 毎月のプライバシーマークに関する報告書への上長検印は電子化されましたが、ISOの関係は部分的に紙媒体が残っています。

 協力会社への請求書は、2021年より電子化に切り替えています。

 印刷業界の顧客が多いため紙を好む傾向にあり、電子化が進んでない顧客とは紙媒体でのやりとりも発生していますが、メールにPDFを添付する形で取り引きする顧客も増えてきています。

■自社の目標計画シートにTDMに関する項目を追加。ISO規格認証としてPDCAサイクルを実施

 全ての取組については、部門別の目標計画シートにTDMに関する項目を盛り込むとともに、ISOでも同項目をPDCAサイクルで行うようにしていたため、問題なく取り組めました。

 プリンター事業においても、大会期間中は時間帯指定が厳しい場合があること、配送遅延が生じる恐れがある等のアナウンスを実施いたしました。

 東京2020大会期間中において、新木場の物流センターで使用するプリンター関連の消耗品は大会前に普段よりも多くストックするようにしていました。

物の流れに関する取組――――――――

■発注時期の調整

 新型コロナウイルスの流行がなければ、前倒しでの在庫調整を検討する予定でしたが、緊急事態宣言によって物の流れが少なくなり、また、需要も落ち着いたこともあって、調整は行いませんでした。在庫の積み増しについても、大幅に行わなくても良いほど、例年より需要が少なくなりました。

■顧客に口頭やWEB等を活用した事前アナウンス

 東京2020大会よる交通混雑対策として、車両を動かす回数を減らすこと等も検討しており、当初は2021年4月に発出できるように準備はしていました。

 実際、アナウンス時期は緊急事態宣言後の大会開催1か月ほど前となりましたが、TDM推進のため、配送回数を一日2~3回だったものを、一日1回に変更する等の協力を依頼する文書を発出しました。発出方法は、担当営業もしくはドライバーによる説明や、ホームページ上にリンクのあるWEB発注画面に掲載しました。

 「配送時間の指定は難しい」という旨の案内も出しましたが、問題はありませんでした。顧客の理解も概ね得られました。

■従前からの在庫管理により計画的な発注を実現し、リードタイムを緩和

 リードタイムを一日長く取れるよう、仕入れのタイミングを変更するほか、その他様々な検討、調整を行っていました。無駄な在庫を置かないよう、10年以上かけて在庫量管理を行っており、以前よりも材料を多く買わなくて済むようになりました。この在庫管理は、年間計画から全ての物に対して数値化し、計画的に注文するようにしています。

■事前の配送シミュレーションを実施し、既存の物流システムを変更

 2019年には、首都高を含む高速道路の交通対策テストの際に、配送便の運行回数を減らす等のシミュレーションを実施しています。

 早朝に新木場の物流センターから拠点に配送し、その後、拠点からさらに展開するルートがあります。その拠点より朝の定刻到着が求められたため、物流センターでの朝積みを廃止し、前日の夕積みに変更することで、配送時間を延ばすように工夫しました。結果、混雑があまりなかったため、1週間程度で元の朝積みに戻っていきました。

 配送回数を減らす試みも行っていましたが、実際の混雑状況を見ながら、車両の動く回数を元に戻すこともしていました。

 東京2020大会期間中の配送ルートについては、対策ルートや時間帯を作成し活用していましたが、現状の混雑状況をみながら、段階的に元のルート・時間帯に戻していきました。運行計画も変更していましたが、状況をみながら、通常の運行計画に戻していきました。

■アクションプランを組織目標設定シートとリンクさせて運用

 2019年の2020TDM推進プロジェクトによる説明会時に、フォーマットを受領できたため、これを参考にしてアクションプランを作成しました。また、セールス部門と情報を共有しながら、配送に関するシミュレーションを行いました。

 元々、年間部門別の組織目標設定シートを作成しており、2019年には、ロジスティックス部門で、作成したアクションプランをシートに落とし込み、TDM推進も目標に入れていました。組織目標設定シートは、全部署で作成しています。  TDM推進の目標は、東京2020大会が閉会した2021年9月にクローズしています。

東京2020大会を振り返って――――――――

 東京2020大会時の運行計画については、大会輸送影響度マップをもとに付近の状況を確認し、自社拠点間の移動車両を一日3回から減らす方向で想定していました。経路探索システムは非常に便利で、検索結果の迂回路等も活用させていただきました。実際のところは大会時にはほとんど混雑の影響はなく、大きな問題はありませんでした。

今後について――――――――

 今回実施した人の流れに関する取組については、新たな習慣として継続していく予定です。

 物の流れについて、自社では、CO2削減の取組を念頭に置いて「配送ルートの適正化」と「EV化」を検討しています。EV化はコスト面で簡単に切り替えられるものではないため、現状は配送ルートの適正化や、無駄な走行距離を発生させないよう実施しています。

 EVトラックの導入は、運送会社とも協力して計画的に導入・検討していく必要があります。

 配送については、物を届けるだけであればサービスでやってくれていた時期もありましたが、CO2排出抑制のため、「まとめ配送」等の取組を広げていきたいと考えています。

 「まとめ配送」の働きかけについては、ロジティクス部門の中長期戦略として位置付けています。顧客へのアナウンスはセールス部門となるため、まずはセールス部門に提案してから、社内の理解を得て、社外に向けて展開していきたいと考えています。自社は、SDGsを目標として取り組んでいる企業であるため、この考え方を理解してもらうための一つのツールとして「まとめ配送」の推進を考えています。