令和元年度受賞企業インタビュー
スムーズビズ推進大賞 大賞
キューピー株式会社
<製造業>
受賞理由
東京2020大会に向けての物流対策はもちろんのこと、将来的な物流効率化を見据えた物流改革を推進してきたキユーピー。具体的にはリードタイムに余裕を持たせる「翌々日納品」を活用した配送計画の見直しや、TSM実施に合わせて、渋滞を想定し、納品時間を前後させる物流のテストを実施するなど、さまざまな取組を進めている。また、こうした取組の普及啓発にも注力し、自社のみならず、物流企業、卸や小売店、他メーカー、また行政とも連携して、持続可能な物流体制の構築を目指している。
- ●人の流れに関する取組:テレワーク、時短・フレックスタイム制・在宅勤務、有給取得奨励、サテライトオフィス勤務等
- ●モノの流れに関する取組:混雑・規制を避けるテスト及び翌々日納品と簡易な検品レスのトライアル
- ●普及啓発に関する取組:他企業への働きかけ(セミナー、スムーズビズキックオフイベント、TV出演など)
「おいしさ・やさしさ・ユニークさ」をもって、「世界の食と健康に貢献するグループをめざす」キユーピーは、2019年に100周年を迎えた。今後も理念を大切に共有し、創業以来受け継いできた品質第一主義を貫くとともに“キユーピーならでは”のこだわりある商品とサービスを、心を込めて届けようとしている。しかし近年、商品を届けるための物流環境が変化し、さまざまな課題を抱えているという。同社は、その課題にいち早く気づき、商品をお客様の元に安全かつ確実に届けるための取組に挑戦してきた。本取組を情熱的に推進してきた、上席執行役員ロジスティクス本部本部長 藤田様、同本部推進統括部部長 前田様、同部企画グループ企画推進チームチームリーダー 岩田様に話を伺った。
スムーズビズに参加した理由
東京2020大会を控え、交通混雑や規制による物流の課題が改めてクローズアップされているが、物流をとりまく環境は、多くの人が考えている以上に危機的な状況にある。その根本的な原因は、ドライバー不足。高齢化が進む中、運転者はピーク時より減少を続け、荷待ちや荷役による長時間労働や低賃金も影響してドライバー不足は歯止めが効かない状況だ。
同社ロジスティクス本部ではこうした問題点にいち早く気づき、警鐘を鳴らし続けてきた。
「2011年の東日本大震災で、物流のあり方や問題点が見え、以来ずっと危機感を持ってきました」(藤田上席執行役員)
そんな同社は、スムーズビズ開始よりも一足早い2018年8月から「翌々日納品」を段階的に進めてきた。社内を説得し、関連会社との連携や協力を進めてきたが、近年の物流環境の急激な変化や課題は、一社では到底解決できない大きな社会問題と化している。そんな折、スムーズビズ(2020TDM推進プロジェクト)の取組について話を聞く機会があり、物流業界全体で機運を高め、新たな物流体制を構築していく良い機会だと、迷わず参画を決めたという。
以降、「スムーズビズキックオフイベント」への登壇等、積極的に講演を行い、東京2020大会に向けた物流の課題、これからの物流のあり方についての普及啓発に取り組んできた。
取組に当たり苦労したこと
取組を進める中で、一番苦労したのは「商慣習」という見えないハードルだったという。「これが常識だから」「変化の必要性を感じない」という意識は、一朝一夕に変えられるものではない。企業によって危機感に対する温度差も大きく「翌日納品が当たり前の感覚となっている中で、翌々日納品はサービスの低下に繋がるという反発もありました」(前田部長)
まずは、自社内で物流が抱えている課題を理解・浸透させる機会を得て、意思統一を図った。そして、卸・小売企業の理解を深める活動へと展開していった。そうした地道な努力によって「翌々日納品」は徐々に浸透してきたという。今夏は更に、7/24、26の交通規制に合わせて、東京2020大会時を想定した配送テストを実施し、大会時の課題を発見していった。また、簡易な検品レスをテストすることで、課題の発見に止まらず、荷受業務の省力化を図り、ドライバーや卸担当者の負荷軽減も確認できたという。
「とにかく一度やってみることです。『中1日納品』も『簡易な検品レス』もやってはじめて気づきがありますし、課題も発見できます」(前田部長)
なお、同社ではモノの流れだけでなく、大会期間中の人の流れの課題にも対応するために、人事・総務部門、物流部門より、オリンピック・パラリンピックコアメンバーを選出。併せて関係の深い本部から担当者を選出し「準備委員会」を設置するなど、全社を挙げて、人流・物流の課題に対応している。
東京2020年大会のレガシーを目指す取組
まずは、2018年夏以来行ってきた取組や実証実験をベース に、東京2020大会を成功させることが、現時点の最重要課 題だという。 「物流課題は理解しつつも、まだ漠然とした不安を抱いてい る方も多いです。東京2020大会そしてそれ以降に向けて、健 全な危機感を持っていただけるように、引き続き、普及啓発 を進めていきます」(岩田チームリーダー) 一方で、「当社にとって、2020年は通過点に過ぎないのです」 という藤田上席執行役員。長年続いた業界の商慣行の変革を 促し、主体的に業界標準化を推進している同社では、2020年 1月より翌々日納品・簡易な検品レスの通年化を目指している。 こうした取組を始めとし業務プロセスをシンプルに整理するこ とで、来たるべき将来に向け、業務の機械化やAIの導入、多様 な人材の活用に備えていくという。その先にあるのは、キユー ピーグループが目指す「持続可能な物流」だ。 「まだ道半ばですが、地道な取組の成果として卸様や提携企 業様との取組も進みつつあります。また、スムーズビズ推進大 賞受賞もきっかけとなり、多くの企業様からお問い合わせも いただいております。皆様と協力してこれからの物流を効率 的で強靭な持続可能なものへと推進したいと考えています」 (藤田上席執行役員) 本取組を成功させ、東京2020大会のレガシーにしたいとい う同社の動向に注目が集まっている。スムーズビズ推進者の声
関わった取組
納品時間を早めるor遅らせるテストを卸・小売企業と実施
スムーズビズ推進期間中の7/24、26に、交通規制・渋滞を踏まえ、納品時間を早めたり遅らせたりするテストを卸・小売企業と協力して行いました。時間をずらしたことによって、先方で出す荷物と入れる荷物が重なってしまい、作業する場が確保できないなど、いろいろな課題も見えてきました。また、重点取組地区の中には、大会本番時にはルート変更しないと厳しいエリアがあることもわかってきました。今、競技の開催日程や時間などの状況によって、臨機応変に対応できるルートパターンの設定を進めています。また、他業種との共同輸送にも力を入れています。例えば、これまで、匂い移りするという理由で食品と日用品は一緒にしないという暗黙の了解がありました。そこで匂い移りの影響度を科学的に検証し、日用品と一緒に積載する際、匂い移りがないようにするためのルールを明確化して、共同輸送の幅を拡げました。これからも物流の効率化の実現に注力していきたいと思っています。