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インタビュー

インタビュー

東京地下鉄株式会社

リアルタイムかつその後の混雑予測情報を発信

 鉄道事業者各社では、混雑の緩和に向け様々な取組を行っており、その一つに混雑の見える化の取組があります。
 ※各社の取組については、時差Bizホームページをご参照ください  https://jisa-biz.metro.tokyo.lg.jp/visualization/
 その中で、東京地下鉄株式会社では、実績データに基づく時間帯ごとの混雑状況のほか、終日かつ全路線・号車ごとのリアルタイムの混雑状況や対象列車のその後の混雑予測の情報をアプリで配信しています。今回は、本サービスを開発した背景や狙いなどについて、鉄道本部運転部運転課の吉野さんにお伺いました。

<鉄道本部 運転部 運転課 吉野さん>

混雑の見える化をAIで実践

 当社では、2021年3月に鉄道業界で初めてデプスカメラと人工知能(AI)を用いて、リアルタイムに号車ごとの混雑状況を実測する列車混雑計測システムを開発しました。21年7月には「東京メトロmy!アプリ」において銀座線と丸ノ内線で「号車ごとのリアルタイム混雑状況」の配信を開始し、22年9月より全線でサービスを提供しています。

 アプリのホーム画面から列車走行位置画面をタップすると、各列車の走行位置が表示され、その列車を選択いただくと、リアルタイムに実測した混雑状況と、その値を用いて予測した対象列車のその後の混雑予測情報を号車ごとに4 段階で確認することができます。

<号車ごとのリアルタイム混雑状況表示方法>

 本サービスの一番の特徴は、リアルタイムの情報だけではなく、リアルタイムの状況を踏まえ、その後の混雑予測の情報も発信しており、乗る区間トータルでどこに乗っていると一番空いているのかがわかるようになっているところです。これにより、空いている列車・号車を選んでご乗車いただき、お客様お一人おひとりがより安心で快適な利用が可能になると考えています。

 アプリもご好評いただいており、閲覧数は順調に伸びています。直近では月に約30万回閲覧していただいています。利用者の方からは、「アプリで確認したあと、空いている号車に移動している」という声も寄せられています。特に、大きな荷物をお持ちのお客様から、アプリで到着駅までの混雑予測を確認して空いている車両に乗ることで、以前より気を遣わずに済んだといった声をお聞きし、当初想定していた以上に利用者様から好意的なご意見をいただいていると感じています。
※東京メトロmy!アプリの詳細は下記をご参照ください
 https://www.tokyometro.jp/mobiledevice/smartphone/my/

列車混雑計測システム開発の試行錯誤

 列車混雑計測システムの開発は、2018年より開始したのですが、当初は、東西線が首都圏において最も混雑率が高い路線になっていたため、お客様の分散乗車や時差通勤を促進したいと考えていたことが発端になっています。開発当初はカメラを取り付けた脚立をホーム上に設置し、人が支えながら、乗客数(車内の人の頭の数)を計測するなど様々な試行錯誤をしましたが、奥行きを計測できるデプスカメラを活用したところ、精度の高い混雑状況が認識可能となりました。

 その後、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、列車内の混雑情報提供のニーズが高まったこともあり、お客様の混雑回避行動につながるサービスとして全路線で活用できないか検討を進めていきました。当社路線は、元々相互直通運転に伴い、他社の車両が多く乗り入れているため、他社車両の混雑状況をどのように把握するかといった課題がありました。そうした中、このシステムであれば車両に限らず、また、どの会社の所属かも関係なく混雑を計測できるところを一番のメリットとして、導入に向けて、システムの構築を加速していくことになりました。

 本システムは、奥行(深さ)情報を取得できるデプスカメラをホーム端に設置し、駅を出発する列車内の混雑状況を撮影します。撮影された奥行情報をエッジサーバでテキストデータ化し、クラウドサーバへ送信、クラウドサーバにて受信したデータを機械学習した人工知能(AI)により分析・解析させ列車内の混雑状況を号車ごとに算出する仕組みです。AIには、数カ月間・何万号車分ものデータを学習させており、列車がカメラ前を通過後10秒程度で混雑状況をアプリで提供できるようになっています。

<列車混雑計測システムの概要>

さらなる活用に向けて

 本システムは、第14 回日本鉄道技術協会坂田記念賞優秀賞や第21 回日本鉄道賞の特別賞を受賞するなど、様々な団体から評価をいただいております。また、鉄道事業者をはじめ様々なところから問合せがあり、皆様から関心をいただいていると実感しています。

 2022年9月からは、リアルタイムの混雑状況をホームのディスプレイに表示し、行動変容の効果を検証する実証実験も行っています。こちらは、東西線高田馬場駅に設置しているデプスカメラで撮影し、リアルタイムに実測した号車ごとの混雑状況を早稲田駅で次に到着する列車の混雑状況としてディスプレイに表示するというものです。こちらについても好評で、画面を見て空いている号車に移動したという声を多数いただいております。(※本実験は23年3月末に終了)今後も本システムで蓄積したデータを活用し、新たなサービスにつなげられないか、検証していきたいと考えております。

 混雑を避け快適に利用していただくため、当社では、本サービスの前から東西線でオフピーク通勤をされた方にポイント(メトポ)を付与する「東西線オフピークプロジェクト」や過去の実績を分析し、列車内や改札口の混雑状況をホームページで掲載するなど様々な取組を行ってきました。一方、当社は相互直通運転を行っている路線が多く、他の鉄道事業者と連携して取り組んでいく必要があるとも考えています。

 今後も、お客様により安心して快適に地下鉄をご利用いただけるよう、引き続き、こうした取組を進めていきたいと思います。