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インタビュー

インタビュー

共栄社化学株式会社様

メーカー主導だからできる物流改革、その苦労と成功とは

 2024年問題と対峙する物流業界に先駆けて、15年前より物流改革を行っているのがメーカーである共栄社化学株式会社。当時の物流危機を憂い、異色のメーカー主導で従来の物流システムに風穴を空ける活動にチャレンジし、いまでは利益を生む仕組みに変えることができているそうです。
 そもそもなぜメーカー主導で物流システムを変えることができたのか、15年前の状況と現状を、同社取締役の東雲様と物流部の伊藤様に伺いました。

15年前のリーマンショックが物流システム構築の分水嶺

 リーマンショックの不景気で輸送量が激減し、トラックが100台、200台もある運送会社が潰れました。沈むなかでも、残った企業で共同配送をしませんか、と首都圏を中心に全国の物流網を作ろうと動きましたが、どこにも話を聞いてもらえませんでした。大手メーカー各社は自社で物流専業部門や物流子会社を持っているのでなかなか入ってもらえませんでしたし、メーカーは原料をどこから仕入れているかを秘密にしているので、情報が漏れるのが怖い、と強い抵抗がありました。
 私どものように中小企業でしかもメーカーがこうした共同配送の活動に取り組んでいるところは殆どなく、運送会社ならまだしも、メーカーが何を言っているのか、という感じで見られていましたが、むしろ運送会社ではないから違う目線で見ることができる、とコスト削減を推進するため、積み合わせを強化してサプライチェーン体制を作りました。
 帰りの便で空気を運ばなくてよい(空車で帰らない)という利点や、メーカーである当社が輸送元、輸送先の情報を持たず、運用はすべて運送会社の責任者に任せるなど、確実な秘密保持を約束し、少しずつ賛同いただけるようになりました。
 2020東京オリンピック、パラリンピックにあたり、当社が2020物流TDM実行委員会様から『未来につながる物流』に選ばれたということが業界の新聞や一般紙にも掲載され、メーカー主導の共同配送という夢のような話は本当だったんだと周りにも認められ、それまで門前払いだった企業からも協賛していただけるようになり、かなりやりやすくなりましたし、エリアを拡大して全国に広げています。いまでは、物流の共栄社化学とまでいわれるようになりました。

2024年問題はドライバーが稼げる機会にしたい

 この物流2024年問題で、現在約6万7000社ある物流会社のうち、およそ2万社が時代の変化についていけずに、廃業、倒産するか、大手と合併すると言われています。そうすると隅々まで輸送が行き渡らずにサプライチェーンが止まってしまい、食べ物が届かない、荷物が来ないという状態になります。
 メーカーは大手でさえも物流はどうにかなると思っている節がありますが、どうにもなりません。食べ物など生活必需品が輸送の最優先となり、それ以外は納期を指定しても遅れることになるでしょう。ですので、食べ物とそのほかの素材との積み合わせを工夫するしかないと考えています。
 トラック3台を連ねての高速道路自動運転のテストも始まりましたが、なかなか実用化が進まず、ダブル連結トラックが認められたものの、規則により4時間ごとに休憩する必要があり、物の流れは悪くなります。九州から東京まで運ぶと、翌日は休まなければならず、ドライバーの連携が必要になるのですが、いま中小の運送会社を中心に10社以上のメーカーで秘密保持契約を結び、一般貨物車で共同配送網を構築しています。
 こうした共同配送を運送会社がメーカーに提案しても、なかなか話を聞いてもらえないのですが、メーカーである当社が提案し、その運送会社を推奨することで、当社中心でサプライチェーンを組むことができ、運送会社は営業活動よりも本業の運送業務に集中できます。そうすればお金が生まれるので、いま離れていっているドライバーも集まってきます。物流2024年問題では、ドライバー1人あたり5万円ほど給料が減る計算になりますので、運送業に従事したいという人が減り、さらに高齢化で運ぶ人がいなくなります。これは運送だけでなくメーカーにとっても怖い話なので、安定した物流手段の確保のため、共同配送の活動はこれからも継続していきます。

取り組みの効果は、確かな利益創出とCO2削減に繋がっている

 売上高に対する物流費率が、15年前には7%から10%ほどに上がり、今も上昇しています。しかし我々は物流戦略によりそれを3%前後にまで下げることができました。毎年削減によって利益を出せていて、その差分を他の設備や研究開発費に投資することが出来ています。
 メーカーは物を作って売るのが本業、物流は二の次、三の次に見られがちで、3PL(サードパーティーロジスティクス)といって大手の運送会社に高いお金を払って全部任せることになり、組み合わせを考えずにとにかく運んでもらうとトラックの台数も増え、CO2の排出量も増えることになります。これは今の時代に逆行しています。
 いま、大手メーカーとも連携し、積み合わせを行うことでCO2削減の取り組みも行っていて、東京だけでなく、関西、九州、東北方面を含めたサプライチェーン体制ができました。積み合わせで4tトラックを最大26tのトレーラーにすることができたことで、7台相当が1台で運べるようになり、CO2の排出量削減にも繋がっています。
 雪対策が必要な北陸や東北方面などでは、除雪に費用が掛かり経費が2倍3倍と膨れるところ、当社と組むことでキロ当たりの単価を下げることができるとのことで、取り扱いが10%、20%と拡大しています。
 運送会社も、確実に車を出せるならこの金額で出来ます、となります。
 こうした活動を通じて、今年滋賀県よりCO2削減を実践している企業として表彰を頂きました。今後も積極的にSDGs、CO2削減、コスト削減に取り組んでいきたいと思います。

DX化でピッキング、棚卸し、運送での効率化にも成功

 当社は15、6年前に、知る限りではおそらく日本で一番早くに危険物自動倉庫のシステムを導入しました。受注すると通常は人が倉庫に入り、フォークリフトで運んでくるのですが、当社の場合、指定の時間になると本社(大阪市)の受注センターから奈良工場のホストコンピューターに受注情報を送り、次にそのデータを連携して滋賀工場の倉庫から自動的にものが出てきて、ピッキングするだけで荷揃えが出来るようにしています。その結果、物流の省人化によるコスト削減だけでなく、ピッキングミスによる誤出荷がなくなりました。
 棚卸しなども人の手を介すと2、3日かかるので、仕事を止めるか休日や夜中に行うとなると作業員の負担になりますが、それをコンピューター上で全て管理できると半日で確認ができるようになります。消防法遵守のため火災報知器の点検や自動倉庫の法令点検などで毎年600万円ほどのコストがかかりますが、作業者が10人から3人に削減できるので人件費より安くメリットがあると思います。
 また、今では普通に追跡情報がわかりますが、15年前に大手運送会社様とシステムを共有して、出荷後の状況も確認できるような運用を開始しました。これで1つ1つ荷物確認の電話をドライバーにすることもなくなりました。
 いま我々が持つノウハウを「LLP(リード・ロジスティクス・プロバイダー)」として、この物流システムのコンサルティングを100社以上に行い、サプライチェーンをさらに広めています。
 こうした活動はサラリーマンからはなかなか出てこないのですが、私どもは常に経営者目線や政策的な目線で仕事を行っています。国や自治体が進めたい政策には民間の協力者が絶対に必要で、こういう活動を行政に認めていただけることで、私どもの活動に共感し、もっと伸ばしていってくれる人が出てきたらいいと思っています。