平成29年度時差Biz推進賞
ワークスタイル部門受賞
豊島区
受賞理由
1日の乗降客が250万人超の池袋駅を抱えている本区において、都と連携して地域の企業・団体に時差Bizを積極的にPRするとともに、交通機関の混雑緩和に寄与すべく率先して時差Bizに取り組んだ。具体的には、従来の勤務時間(8時30分から17時15分まで)の前後1時間に30分単位で時差を設け、全5パターンから選択できる時差勤務を実施した。原則いずれかのパターンに固定するものの、業務の繁閑に応じて「日」単位での利用を可能とする等、柔軟性の確保に努め、住民サービスの低下を招くことなく実施できた。
池袋駅という巨大ターミナルを抱え、区内に数多くの商業施設、各種企業を有している豊島区。自治体として適切な行政サービスを提供していくことをもっとも重要な使命としながら、同時に、職員の働き方の改善についての意識も高い同区。その根底にあるのは、勤務環境を快適化することで働く意欲を高め、生産性を増し、さらなる区民サービスへと転換させていこうという考え方だ。 その具体的活動として表れたのが、自治体では比較的珍しいという「理由を問わない」時差勤務の導入である。原則、全職員を対象に実施されているこの取組について、総務部人事課人事制度グループの青木様を中心に、同グループ係長の大木様、同グループの岡﨑様の3名に話を伺った。
時差Bizに参加した目的
豊島区では、時差Bizに先駆け、育児・介護を行っている職員を対象とした時差勤務をすでに制度化していた。だからこそ時差Bizへの参加もスムーズに決まり、さらに「区として新しくやれることはないか」を探る意欲も生まれたのだという。
「私たちは、あえてどの区でもやっていない、豊島区らしいことにチャレンジしてみようと考えました。それが、原則理由を問わず誰もが利用できる時差勤務です。もし制度化すれば、利用対象者の数は一気に増加しますから、新たな課題が見つかることも予想されました。そこでまずは、試行実施という位置付けで時差Bizに参加することにしたのです」(青木様)
当初懸念されたのは、区民との重要な接点のひとつである窓口業務に支障が出るのではないか、制度を利用するか否かで職員間の業務負担が偏り、不公平感が生じるのではないかなどといった点。そこで時差Biz集中取組期間のスタート前に、窓口業務を担う所属の管理職等を集めて入念な説明を実施した。
「その際には、職場ごとに職員のローテーションを考えるなどして、個々人のワークスタイルに合った勤務環境を確保することを提言し、職員がより生き生きと働き続けられるようにしたいとアピールしました」(青木様)
具体的な取組内容
出勤時間は7:30、8:00、8:30、9:00、9:30の5パターンの内から自由に選択、なおかつ制度利用の理由は一切問わない。この施策は、結果的に昨年の時差Biz期間中、約200名の職員に利用された。直後に実施したアンケート調査では約7割から好意的反応が得られ、制度利用者の約8割が「満足」「やや満足」と回答している。このテスト期間の結果を受けて、豊島区では平成29年10月から時差勤務制度を正式導入。その際には、一ヶ月単位での利用を原則とすることとした。
「制度利用の申請は少し早めに、前月一週間前までとするなど、現場が諸々の対応を取りやすいよう配慮しました。実は、豊島区で利用している出退勤システムには、勤務時間帯が変わっても簡易な登録変更のみで対処可能な機能が元々備わっていたのです。そのため、改めてシステム改修などを行わずとも良かった。これも制度導入を後押しする要因の一つになったといえるでしょう」(岡﨑様)
柔軟かつシステマチックな体制を構築したことが功を奏してか、日常業務への支障もなく、従来通りの区民サービスの提供が維持できたという。制度利用者から「プライベートの時間が充実した」との声が挙がる一方、未利用者に若干の負担がかかるとの声も聞こえたことで、今後解決すべき課題が見えたものと受け止めているという。
時差Bizに期待すること
平成30年7月からスタートする時差Biz集中取組期間では、豊島区は現行の勤務パターンをさらに拡充できないか検討しているという。例えば、平日の夜に業務が予定されている職員であれば昼の12時出勤も可能とするなど、出勤時間のパターンをさらに細分化させようと構想しているのだ。
「通勤混雑緩和はもちろん、職員にとって快適なライフ・ワーク・バランスを追求する、働き方改革へとつながる取組にしたい。準備が整うようなら、今回の時差Bizをまた試行期間として活用したいと考えています」(青木様)
「そう言った意味で、時差Bizはチャレンジのための最適の機会だと感じます。自治体が働き方改革を実現するのは実はなかなか難しいのですが、東京都がバックアップしているとあれば、我々もチャレンジしやすい。もちろん、その一方で区民サービスの維持、向上を目指すことには変わりありません。理想的なのは、職員が自らの働き方を選択できるようになって満足度が上がり、それが業務の向上に、さらには区民サービスの向上につながっていくことです」(大木人事制度グループ係長)
「規律が重要視される」というイメージが強い自治体が、フレキシブルな勤務環境づくりに積極的な姿勢を見せていくことには意味がある。同時に、その姿勢や意識が豊島区と関わりのある人や企業に波及して、社会全体の働き方の変化につながっていったら……3名は、そんな期待も抱いているようだ。
“テレワーク”実現への道を探る
豊島区では、管理職にタブレット端末等を貸与。出張中などでも庁内のシステムにアクセスでき、業務を遂行できる環境を整えている。モバイルワークと呼ばれるこの形態をうまく活用、広げていくことで、在宅勤務制度を構築していきたい意向だ。
「実現するにはまだたくさんの課題がありますが、通勤混雑緩和にもつながるこの取組を、時差通勤と同様に時差Bizをきっかけとして推進していければと考えます」(岡﨑様)
「その際、大切なのは『なぜ今テレワークを導入するか』という根本的な部分でしょう。職員や区民のために、テレワークがどう活きるのかを第一に考えることで、新たな動きを生み出していきたいですね」(大木人事制度グループ係長)
テレワークについては、現時点では制度の幹となる部分を固めている状況だ。また、個人情報を多く扱う自治体業務ならではの配慮についても、深く考えていく必要があるだろう。試行錯誤はこれからも続くが、豊島区は変化を厭うことなく、むしろ歓迎しながら時代に寄り添う姿勢を保ち続けているようだ。