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インタビュー

インタビュー

日本マイクロソフト株式会社

働き方改革の先にあるもの

日本マイクロソフト株式会社 小柳津 篤氏
日本マイクロソフト株式会社 小柳津 篤氏

東京都では、東京 2020 大会期間中の交通量の抑制や分散に向けた交通需要マネジメントや、自宅などオフィス以外で勤務するテレワーク、オフピーク通勤を促進する時差Bizなどの取組を「スムーズビズ」として一体的に推進しています。

これにより、大会時の混雑緩和はもちろんのことですが、大会をきっかけに、多くの皆様に、テレワークやオフピーク通勤など多様な働き方を体感していただき、新しいワークスタイルや企業活動の東京モデルとしての「スムーズビズ」を社会に定着させていくことを目指しています。

テレワークやオフピーク通勤を体感することで、何を経験できるのか、そしてその先に期待できるものは何か。働き方改革推進の旗振り役として多くの提言を行っている、日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター エグゼクティブアドバイザー 小柳津 篤(おやいづ あつし)氏に、同社の取組や、働き方改革を推進する意義などについて話をうかがいました。

※本インタビューは、東京2020大会の1年前の、交通混雑緩和に向けた様々な取組を総合的にテストする「スムーズビズ推進期間」(2019年7月22日~9月6日)の開始前に行われました。

働き方改革と東京 2020 大会

多くの企業、事業所、役所は、テレワークの実施に試行錯誤しています。テレワークを福利厚生として導入している企業もありますが、メリットはそれだけではありません。テレワークを導入することで、生産性を上げること、労働環境の向上につながります。

オリンピックは日本人が世界に責任を持つ大きなイベントです。大会期間中に競技会場付近は言うまでもなく、都内への出勤が困難になることは容易に想像できますが、開催国、特に開催都市として、東京の企業等は、「いろいろあるけど、この期間は、交通混雑緩和に向けた取組に協力しよう」と思うことでしょう。そして、就労者自身がテレワーク、オフピーク通勤の良さを体験できる、100年に一度かもしれないくらいの極めて稀な機会となります。

この機会にみんなで一緒に良さを体験してみるのはどうですか。

日本マイクロソフト社の取組と2019年夏の週勤4日について

日本マイクロソフト社は、働き方改革の加速に向けて、2019年4月22日に、「ワークライフチョイスチャレンジ2019夏」の実施を発表しました。「ワークライフチョイス」とは、社員一人一人が、仕事や生活の事情や状況に応じた多様で柔軟な働き方を、自らがチョイスできる環境を目指すものであり、この夏、全社員が「短い時間で働き、よく休み、よく学ぶ」ことにチャレンジし、生産性や創造性の向上を目指します。

週勤4日の取組が、週休3日として、非常に注目されましたが、これは、取組のうちの一つにすぎません。わたしたちは、生産性を上げるため、組織力を強め、向上させるために、週勤4日の結論に至りました。福利厚生の一部ではなく、会社が生き残るかどうかという方向から検討した結果です。

新宿オフィス時代

週勤4日、テレワーク、時差出勤の良さをお話しすると、「外資の会社だから、IT会社だから」と思われる方もおられます。しかし、オフィスが現在の品川でなく新宿にあった10年前は、毎日、同じ時間の満員電車に乗って通勤し、大勢で長時間仕事をしていました。3人以上で何かしようとすると、直接会う以外に方法・手段がありませんでした。当然、長時間労働になり、意思決定に時間を要していました。

転換点となった東日本大震災

新宿から品川に移転した直後の2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。私はスニーカーを履き、徒歩4時間かけて出社しようと思いましたが、出社しないようにとのメールが社長から届きました。もし徒歩で出社したら美談にはなったかもしれませんが、仕事にはならなかったでしょう。社員全員、否が応でも一斉にテレワークを実践しなければならない状況です。品川オフィスに誰も出社しないことなど、全く予想していませんでした。が、何も困りませんでした。これには私自身が一番驚きました。出張中と思えば何も変わらず、仕事はできました。月曜、火曜日はどうしたら良いかといろいろ考えましたが、水曜日、木曜日には在宅勤務の良さを感じ始め、金曜日には是非来週も在宅勤務をしたいと思っていました。

震災の前から在宅勤務について何回も説明したり、議論したり、理解、納得を得るためのポスター制作、掲示に努めてきました。しかし、この体験を通して、これまでの行動、習慣に変化が生じてきました。

品川オフィスに移転してから

品川オフィスの空間
品川オフィスの空間

品川にオフィスを移転するにあたり、島型オフィスからフリーアドレスへ空間を大きく変更しました。個人用の大型キャビネット、ロッカー、バインダーもなくしました。オフィスの空間を変えたことに加え、仕事のやり方を大きく変えました。もちろん、今でも対面で会議をしていますが、チャット、テレビ会議などあらゆる方法を活用しています。ですから、家、歩きながら、カフェ、託児所などでも仕事ができるわけです。

新宿オフィスでは白黒印刷に年間1200万枚の紙を使っていましたが、1100万枚削減し、100万枚にしました。紙をPDFにしたので削減できたわけではありません。それだけでは、PDFを印刷する人もいますから、今までやってきた作業をやめないとこの差は生まれてきません。

この10年で、事業規模(年間売上高)は180%伸びましたが、総労働時間は60万時間減りました。これは弊社の社員数と労働時間に換算すると、一人年間40日、つまり一人あたり約2か月分の労働時間が短縮したことになります。新宿オフィスでは、毎日、同じ時間の満員電車に乗っていましたが、今はもうそんな選択をする人は誰もいません。

今やっている仕事のやり方はそのままで、制度変更を考えたり、スマートフォンを貸与したりという話ではなく、今やっている仕事のやり方をどう変えるかが重要です。仕事のやり方を変えた上で、制度変更やスマートフォンなどのツールの導入がなされると、生産性向上、労働時間短縮、ペーパーレス化も不可能ではなくなってきます。

仕事を見直すためのポイント

価値観の実践の図

仕事を見直して、価値観を実践していくために必要なものは3つあります。

1点目が、「業務の整理整頓“標準化”&“電子化”」です。例外的な対応や処理を最小化したうえで、聖域なきペーパーレス化を進めなければいけません。

2点目が、「圧倒的に“便利”で“安全安心”な環境整備」です。 いつでも、どこでも、誰とでもコンタクトできる環境を選択肢として整える上で、利便性、安全性が保障されていることが大切です。やりづらい、わかりにくい、遅い、制限されている、家でやったら情報漏えいが心配など、利便性、安全性が保障されないと、社員は仕事をやらなくなってしまいます。

3点目が、「“習慣化”を経て実現する“企業文化”」です。組織、個人の習慣は簡単に変わりません。働き方の習慣が変わるまで、粘り強く働き掛けを続ける必要があります。新しい制度、システムを構築したのに全く使われていないものがあるのはそのためです。勇気と理由が必要ですが、習慣で行ってきた仕事のやり方を見直す必要があります。個人では決められない部分があるため、検証するためのBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)や、客観的に見る部署・担当者が必要です。

わたしたちの働き方も変わりましたが、実は社会そのものもずいぶんと変化しています。このことをわたし個人の体験を基に “Onsen理論” として説明しています。

以前の温泉旅行は、ガイドブックで下調べをして、代理店にFAXで予約をして、宿泊施設からカタログを取り寄せて、航空券のチケットを発券して、現金でレンタカーの支払いをして、…と、様々なプロセスがありましたが、現在は、全てスマートフォン上で済ませることができます。温泉に入って癒しや団らんを楽しむ、という代替のきかない行為以外は、電子サービス化されています。

Onsen理論の図

これを仕事に置き換えると、検索、報告、根回し、承認、決裁などの業務は、場所と媒体を選択する働き方により、全てネットワーク上で進めながら、意思決定、実行のスピードを速めることができます。

しかし、困難な交渉、重要な判断など、対面で対応すべき案件は、当然あります。私たちも、対面での業務をおろそかにしているわけではありません。本当に対面が必要なのか常に考えながら、対面以外の選択肢を活用しています。忘れてはならないポイントは、早く決断し、早く実行した方が、明らかに生産性の向上につながるということです。

Onsen理論(仕事の場合)の図

現状の打破に向けて、働き方を変えていくために

「家で働いてください」と言われるだけでは、何もできません。こういう段取りがあって、こういう準備があって、こういう環境があって、この条件下なら、このようにできるという実例に触れ、リアリティーを高めることが重要です。

会社の業務形態は様々です。テレワークに関する参考事例から自分たちにもこんなことができる、こんな方法もあると一人一人が気付くことはとても望ましいことです。「スムーズビズや働き方改革は、とりあえずはオリンピック対応と思っていたけど、その先にはこんな良い未来、果実がある」と考えるきっかけにもなります。

働き方を変えることにより、減るもの、増えるもの、そして人の気持ちに嬉しいものもあります。最初は社内でテレワーク参加者何人というレベルでスタートするかもしれませんが、あらゆる選択肢を使って取組を進めると、減ったもの、増えたもの、そしてどう思ったかを、取り組んだ人自身が、良さとして実感できますし、取組が広がっていきます。

例えば、やれそうもない人・仕事であっても、「こうしたらできた」「少しだけでもOK」の事例を知ると、リアリティーが増します。検討を進める上で、心配し続けるだけでは、状況は進展しません。

是非、大会を機会に、現状を打破する一歩を踏み出しましょう。

資料出典:日本マイクロソフト株式会社