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インタビュー

東京2020大会期間中のTDMの取組等に関するインタビュー

キユーピー株式会社

(2021年10月29日インタビュー実施)

 オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」という。)の開催に伴い、通勤時の混雑や交通混雑が見込まれ、社員の出社や自社の重要会議等の東京本社開催、物流の配送が厳しくなることが想定されたため、これらを回避するための取組の検討を始めました。

 2018年12月の2020TDM推進プロジェクトの説明会を受けて、社内の重要会議として準備委員会を設置しました。

 準備委員会は総務部が事務局として運営し、その協議内容については経営会議にも報告して共有しました。出勤や営業の可否、働ける環境の有無などは、生産・営業・物流・総務等の全てのセクションにおいて、事業リスクに係わることであるため、経営レベルで扱っていました。

 その後、新型コロナウィルスの感染が拡大し始め、これら取組の準備が加速化されました。

人の流れに関する取組――――――――

■スプレッドシート等の活用による出社/在宅勤務の把握

 最初の緊急事態宣言下(2020年4月)は、出社できたのは本部長のみで、受注体制も最小限にするよう社内で通達がありました。これを受け、各部署では出社が必要な人員の精査が行われました。

 出社/在宅勤務の管理は、インターネットのスプレッドシート等を活用し、一か月分の予定を個々人が入力し、これを社内で共有する形で行われました。現在でも継続して取り組んでいます。

 緊急事態宣言下や東京2020大会時の出社率は3割としていましたが、緊急事態宣言が解除された今は、本社で5~7割の出社率となっています(現在も継続中)。受注担当においては、在宅でも受注できる体制にしていますが、現状、4割から6割程が出社しています。

 在宅勤務となり、きちんと仕事ができているのか、新卒社員等が仕事を覚えられるのか、社員は元気でいるのか等、不安や課題を感じることは多かったと思います。在宅勤務の実施にあたっては、業務内容の洗い出しを行い、出社してやるべきことの精査ができるようになってきたと思います。また、オンラインでの画面越しでのコミュニケーションの取り方等も徐々に磨かれていったと思います。

■FAXの電子化によりテレワーク率を向上

 受注の電子化は、東京2020大会の開催に関わらず進めていましたが、未だ、若干FAX等でやり取りしているお客様もいるため、FAXでの受注書類をどのように仕分け、配布、入力するかが在宅勤務時の課題でした。このため、FAXを電子化して送受信できる仕組みを導入することで、テレワーク率の向上を図りました。それでも、出社して対応しなければならない案件もあったのが実状です。

■感染リスクを考慮し、柔軟な業務シフトに変更

 緊急事態宣言下や東京2020大会時においては、感染リスクを考慮し、出勤時の混雑を避けて遅く出社する人や、早出・早帰する人など、柔軟な業務シフトとしました。コアタイム等についても、部門ごとに検討・対応するようにしていました。

 自社としてもオフピーク出勤を認めていますが、実際には、緊急事態宣言下は公共交通機関も人が少なくなっていたため、通常の時間に出勤した社員が多くみられました。小さなお子さんがいると保育園に預ける時間等との兼ね合いもあり、出勤時間を変更しにくい事情がある社員もいます。

■自社工場近くの事務所や営業所等をリモートオフィスとして活用

 民間が運営しているサテライトオフィスは利用していませんが、自社の工場の傍にある事務所や営業所をリモートオフィスとして活用しました。コロナ禍においては、リモートオフィスを利用することで、なるべく電車に乗っている時間を短くし、都心等の人が多い地域は避けるように社員に呼び掛けていました。

■リモート会議用ブースの設置等によりオンライン会議を促進

 オンライン会議への切り替え当初は、回線が少ない等の課題もありましたが、今では取引先等を含めてオンライン環境が整備され、特に問題なくオンライン会議ができています。また、自社にあった電話用ブースをリモート会議用ブースに変更するなど、社員のニーズに合わせて環境の整備を進めてきました。

 オンライン会議は、社内だけでなく、取引先・協力企業とも実施しています。

 同じオフィスに在籍する関連会社とは、対面での会議がしやすいこともありますが、他社とコラボレーションする会議等は、コロナ対策の面からもZoomやTeams等のオンライン形式で行うようになりました。

物の流れに関する取組――――――――

 リードタイムの緩和や検品の簡素化、納品時の付帯作業の軽減については、商慣習の問題として以前から議論されています。

 自社においては、東京2020大会では交通混雑が見込まれることから、確実に配送をするためには十分な準備時間を確保する必要があり、以前から議論している商慣習の問題に取り組んでいかなければならないという話が持ち上がりました。今回、東京2020大会が良い機会となり、それらの取組が進んだと実感しています。

■納入時間の変更による遅配・欠配の回避

 東京2020大会期間中は、会場付近への日中のお届けは難しく、そこから半径○kmは早朝に届けなければならないという課題感をもって、2019年夏の試行での交通影響度分析に、大手の卸業や小売業と一緒に参加しました(※本結果は2019年11月のスムーズビズイベントで公表)。

 交通影響度分析は、3日間にわたり納入時間の変更テストを、環七の信号青時間の調整等による交通対策テストと同じタイミングで実施しました。結果としては、早朝納入に変更した場合、行き(納品時)は全く問題ありませんでしたが、帰りに少し混み始める程度でした。

 この結果を受け、出発時間をコントロールできればルートの変更までは必要ないとの判断に至りました。東京都の経路探索システム等を活用して準備していましたが、実際の東京2020大会時には多少の渋滞はあったものの、コロナ禍により無観客となったこともあり、届けられないという状況にはなりませんでした。

 取引先や協力企業においても、東京2020大会による影響を十分に認識されていたので、取組実施への理解は得られやすかったと思います。

■リードタイムの延長と検品レスの必要性を再認識

 リードタイムや検品レスは、東京2020大会を良いきっかけに、製・配・販(メーカー・卸・小売)の共通の課題として再認識できたと思います。これまでは個社レベルでの取組が多かったのですが、現在では業界で連携した試行を実施しながら、横並びでの取組が進められています。

 取引先や協力企業の反応としては、リードタイムの延長については、以前から夏の繁忙期にはトラックが不足しており、東京2020大会時はさらにトラックが不足すると予想されたため、理解してもらえたと思います。検品レスについては、事前出荷情報など仕組みの変更が必要になるため、出来る事と出来ない事があるのが現状です。

■中継拠点の活用によるドライバーの労働時間の短縮

 長距離輸送については、発着地点の間に中継拠点を入れて配送しています。現在も、関東から大阪に行く際、浜松でスイッチ(ドライバーの交代)が行われていますが、今後、ドライバーさんの一日当たりの労働時間の上限に制約が出てきた場合、現在の中継数では足りなくなる可能性があります。他社との共同中継拠点等の検討の必要性も生じてくるかもしれません。

■他社とのコラボレーションで物流の効率化(共同輸送(モーダルシフト))

 自社では、オリジナルの冷凍コンテナを保有し、関東から九州へ、鉄道で輸送していましたが、九州から関東への輸送のコンテナについては十分に活用できていませんでした。そんな中、「キユーピーグループモーダルシフト推進協議会」(JR貨物様・全国通運様も参加協力)で、JR貨物様より九州側から運びたいものがあるがこのコンテナを利用させてもらえないかという打診があり、伊藤ハム社様とコラボレーションした取組が始まりました。

 ライオン社様及びJPR社様など異業種ともモーダルシフトを含む共同輸送を行っており、グリーン物流パートナーシップ等で表彰されています。

 このような表彰のイベントや各種会合の場が、さらに別のコラボレーション先を探すきっかけとなり、これが物流の効率化につながっていくものと実感しています。

東京2020大会を振り返って――――――――

 東京2020大会の対応で難しかった点は、会場が分散していたこと、競技の実施日時が会場毎に異なることでした。今後のイベント対応では、そのイベントに人がどの程度集まるのか、イベントについてどのような情報が入手できるかが対応検討時のポイントになると思います。

 2020年5月には自社の対策をまとめていましたが、東京2020大会が延期となり、さらに1年以上の準備期間ができたため、早期に会場別の納品計画等を立てることができました。

 情報を早く入手することができると、準備も早くできます。届け先や、さらにその先の届け先に説明するには時間が必要で、自社と関係が遠い取引先ほど、課題を認識してもらい辛いのが実状です。全ての関係者に課題を理解してもらうためには、ある程度の時間が必要になることを、東京2020大会を通じて実感しました。

今後について――――――――

 人の流れに関する取組みについては、今後も継続していく予定です。

 物の流れについては、今回検討・実施した早期納品はお届け先の負担が大きいため、イベント時以外での継続は難しいのが現状です。

 賞味期限について、納入期限(鮮度基準)が大手企業では1/3といわれていますが、これを1/2にすることで廃棄つまり食品ロスを減らすことができ、納品の回数も調整することができます。これが業界基準として統一化できれば、受注後の荷物の調整時間を短くすることができ、リードタイムの延長が進み易くなります。受注の電子化等による時間短縮と合わせ、推進していきたいと考えています。

 また、これまで製・配・販の業界各社が横並びとなって協議・検討できる場や機会がほとんどありませんでしたが、東京2020大会やコロナ禍をきっかけに、現在では、業界の中で課題感の共有が進み、製・配・販連携協議会等でも共通の課題を認識して一緒に考えられるようになってきています。

 業界が抱える課題については、デジタル化やフィジカルインターネット等による人に依存しない方法による対応等も必要になってくると感じています。

 物流効率化の取組は、個社でできることには限界があり、ある程度、大きな塊(業界)として動かないと進んでいきません。行政との連携も必要だと思います。例えば、良い取組を評価して推進していくような旗振りがあると、業界にとっても良いと考えます。

 また、各事業者に取組について考えてもらえるような場や機会も大事だと思います。業界関係者が広く参加するイベント等、社会的意義をしっかり伝える場や機会、良い取り組みを推進している企業が認められ、情報発信できる機会がもっと増えると、取組の輪が広がると思います。

 加工食品物流を取り巻く課題が解決されなければ、2024年には物が運べなくなります。人口も減少し、仕事は多様化し、物流の担い手はもっと減っていく、でも運ぶ荷物は増えそうなど、「必要性や危機感」について、広く理解が得られると、これを追い風として物流効率化の取組も進んでいくと思います。