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インタビュー

東京2020大会期間中のTDMの取組等に関するインタビュー

アステラス製薬株式会社

(2021年11月2日インタビュー実施)

 2018年11月、2020TDM推進プロジェクトによる説明会に参加し、同時期に自社の社長および担当役員からトップダウンでオリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)に向けた検討の指示が出されました。

 早くから取組の検討を開始していたため、大きな成果が得られたと思います。

人の流れに関する取組――――――――

■ 2020年の大会開催前よりトップダウンで取組を開始、派遣元とも調整し派遣社員も社員同様にテレワークを実施

 テレワークに関する制度は、東京2020大会前からありましたが、当時は、育児や介護等の必要がある社員への例外的な働き方として認識されていたため、実際の利用者数は限られていました。

 東京2020大会の主要な対策の一つとして、大会期間中は最低限必要な一部の要員を除いて本社勤務の全社員が一斉にテレワークを実施するという目標を立てて準備をしていたため、結果として新型コロナ対策としてのテレワークにも円滑に対応することができました。いまではテレワークが浸透し、緊急事態宣言下ではなくても本社の出社率は概ね30%以内となっています。

 当時、特に苦労したのは派遣社員にテレワークを適用することです。最終的には、全ての派遣元会社と調整を行いテレワークができるようになりましたが、当時は、対応について明確になっていない部分が多く、慎重にならざるを得ない状況にありました。そのため、労働基準監督署にも確認し、派遣社員のテレワークは可能であるとの確認が取れたことから、当事者の理解を得ながらテレワークを推進しました。

 勤怠管理について、緊急事態宣言1回目は、いつ、誰が出勤するかをBCP事務局で把握していましたが、これは非常に非効率な作業であったため、2回目の緊急事態宣言以降は、各部署での把握としました。

 大会開催時期に全社一斉休暇も計画していましたが、すでに医薬情報担当者(MR)を含めテレワークが浸透していたため、2021年の大会期間中には実施しませんでした。

 MRについては、コロナ禍ゆえに医療機関を訪問することができず、リモートでの活動に切り替えざるを得ない状況でした。現在もリモートでの活動は拡大しており、業界全体で見てもMRの活動は変化しています。

■既存の裁量労働やフレックスタイム勤務を活用し、密を避けた通勤を推進

 本社での定時勤務は8時45分~17時45分となっていますが、裁量労働やフレックスタイム勤務の社員が多いため、それらの制度を活用して通勤は混雑時間帯を避けるよう働きかけました。現在でも、社員は自発的に密を避けた出社をしています。

■押印書類をまとめることで、作業に伴う出勤回数を削減

 社内手続きに関して、押印をしていた書類は特段の制約がなければ、メールでの決裁ができるように促しました。また、押印が必要なものについても、できる限り一度に押印できるように取りまとめ、作業回数・出勤回数を減らすように取り組みました。

 郵便物の受け取りは、部署内で代表者が出社した時に対応していました。期限があるものは担当者へ連絡するなど、各部署で工夫して対応いただきました。

■役員が率先してタブレットを使用しペーパーレスを推進

 ペーパーレス化については以前から強力に進めてきましたが、東京2020大会や新型コロナの流行、テレワークの普及によりさらに加速化しました。紙の書類は本当に必要なものだけを残し、PDF化したのちに廃棄するなどして、保管場所を少なくすることができました。役員がペーパーレス化を率先したことも強力な促進要因だと思います。また、ペーパーレス化が進んだことにより、印刷枚数が大幅に減り、複合機の台数削減につながっています。

■リモート会議で雑談の機会を設定するなど、コミュニケーションを確保

 コロナ禍においては、数か月間オフィスに出社しない社員もいて、コミュニケーション面の課題は否めません。特に人材育成など、短期的には顕在化しにくい課題に注意しておく必要があると思います。全社一律で有効な対策となると難しいのですが、各部署において業務特性やメンバー構成の違いを考慮して、あえてリモートでの雑談の機会を設けたり、出勤時にコミュニケーションを取りやすい環境を整備したりするなどの工夫をしています。

■テレワーク等の状況に応じたオフィス空間の見直し

 テレワークが主要な働き方の一つとなり、オフィス勤務と在宅勤務の最適な比率の組み合わせ(ハイブリッドワーキング)を推進しています。本社オフィスについては50%程度の出社率を想定して設計しなおし、オフィスに出社したときは「コミュニケーションとコラボレーションを促進する」ことをコンセプトに改装しました。フロアの制限がないフリーアドレスとし、座席予約やどの座席に誰がいるのか把握ができるホテリングシステムを導入しています。また、小さめの会議室や2人用・4人用のテレキューブを設置し、リモート会議や少人数での打合せをしやすくしています。

■時間や場所に囚われない働き方推進等を目的に取組を実施(アクションプランの策定)

 東京2020大会に向けた対策の立案にあたっては、トップマネジメントから以下の方針を指示されていました。

  • 東京2020大会を理由に事業活動の縮小はしない。
  • 大会期間中の社員の移動は必要最低限とする。
  • 経営上重要なプロセス、イベントは、東京2020大会を理由として遅らせない。
  • 社会的に必要な業務上のプロセス(医薬品の安定供給、安全性情報の収集等)は維持する。
  • 東京2020大会対策のためだけに新たな投資をしない。
  • 他の会社がどうやっているのかを見るのではなく、自分たちで引っ張っていくつもりで実行する。
  • 気合と根性で何とかやるという精神論ではなく、具体的な対策とする。

 これらは対策の立案・推進を大きく後押ししました。また東京2020大会に向けてだけではなく、時間と場所に囚われない働き方の加速や、災害対策およびBCPの実効性を強化するという観点でも貢献しました。

物の流れに関する取組――――――――

■大会期間を避けた発注を推進

 発注時期については、東京2020対策事務局が主導する形での大幅な調整は行っていません。

 結果をみると、輸出管理や郵送関係の担当者が自発的に、大会期間中は混雑による遅延が発生する可能性があるため、大会期間のタイミングに重ならないように調整していただきました。

 また、大会期間中のMRの自動車での移動について、2020TDM推進プロジェクトから提供された混雑予測の情報を社内で共有し、規制が予定されている環状7号線の内側と首都高の利用は避けるように案内していました。

東京2020大会を振り返って――――――――

 東京都の経路探索システムを活用していたこともあり、大会期間中は交通規制による遅れ等のトラブルは1件もありませんでした。

 現在は、新型コロナウイルス感染症対策を理由に、派遣社員もテレワークを行っていますが、東京2020対策として提案した当初は抵抗感が強かったように思います。東京2020大会の準備として取組を進めていたため、スムーズに移行できましたが、新型コロナの流行が始まってから対応を開始していたら、これほど円滑にはできなかったと思います。

 東京2020大会やコロナ禍への対策を実施することで、リスク管理や危機管理の実効性を高めることにもなりました。例えば、本社周辺での有事対応について網羅的に整備することができ、これはレガシーになったと認識しています。

今後について――――――――

 今後も、東京2020大会への対策で学んだことをハイブリッドワーキングの推進、災害対策、リスク管理・危機管理などに活かしていきます。対策検討にあたり、東京都のオリパラ準備局の皆さんには多大な支援をいただき感謝しております。