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インタビュー

東京2020大会期間中のTDMの取組等に関するインタビュー

アサヒビール株式会社

(2021年10月21日インタビュー実施)

 自社ではホワイト物流の推進により、トラック輸送の生産性の向上や物流の効率化等を図っています。

 大型トラックの乗務員は高齢化によりリタイヤされる方が多く、また、若手が入ってこないことで、慢性的に不足している状態にあります。これについては、物流の効率化等により出荷台数の削減、その他、付帯作業の見直しを行うことで、なるべくドライバーに負荷がかからないよう対策を講じています。

物の流れに関する取組――――――――

 オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」という。)時に影響があると想定された物流体制は、以下の2系統がありました。

  • 茨城工場(茨城県守谷市)から、大型車でパレット積み配送にて大口取引先に配送
  • 都内の配送センターから、2t車でルート配送

 大型車の場合、拠点から早朝に一回転目、午後に二回転目といった単純な形態のため、出荷の時間を早くすることで東京2020大会による影響を回避できると想定しました。

 一方で、2t車等の小型車によるルート配送に影響が出ることが想定されたため、2020TDM推進プロジェクトのシミュレーション(大会輸送影響度マップ/所要時間・経路探索システム)を活用して所要時間を算出し、2020年1~3月頃に対策検討を行いました。経路探索システムは、運行ルートの確認や、配送の所要時間の算定に用いました。

 シミュレーションは、エリアごと・配送網の拠点ごとに負荷のかかる地域が定量的に把握できたため、社内での対策検討や、物流部門外での認識共有にも役立てられたので非常に助かりました。

 東京2020大会に備え、検討段階で出された具体的な対策は、以下のとおりです。

◇リードタイム(時間指定)の緩和
 通常は早朝の配送に偏っていたため、昼などに配送時間を分散させ、車両台数の緩和を行う。

◇納品日の平準化
 納品が多い日の平準化を図れるよう、納品先に周知。例えば、小口単位で毎日納品していたものを、発注単位をまとめてもらい週に1回の納品とする。

◇発注のタイミング(前倒し発注)
 得意先も含めて協力依頼を行い、前々日の注文による「中一日配送(D2)」に変更する。本取組みは東京2020大会に限らず、お得意先に協力を頂いている。

◇得意先の付帯作業の廃止
 荷降ろし以外の付帯作業がある場合は、この見直しによる配送時間短縮について検討する。

■同業三社による共同配送

 共同配送については、2011年よりキリンビール社との二社で検討を開始し、その後、2015年にサッポロビール社も加わりました。

 現在、都内においては、三社の配送拠点を共同で活用し、各拠点のカバーするエリアを決めて配送(共同配送)を行っています。

 以前は、各社の配送拠点から単独で配送を行っており、1拠点あたりの物量が少なかったり、配送距離が長くなったりといった課題がありましたが、三社の拠点を共同で活用し、三社の配送をまとめることで、積載率や配送距離の面で物流の効率化が図られています。

 この共同配送の構築には、各社における納品条件の差もあり、これらを統一化していくことに労力がかかりました。

 ビール業界では、「ビールパレット」として仕様が統一されているため、同業者でパレットの違いによる配送の問題はありません。なお、小型配送はパレット積みではなく、手積み・手降ろしが多くありますが、基本的には、配送の対象は瓶ビールや樽ビールであるため、多少の違いはあっても、その違いによって非効率になることはありません。

■取引先に大会時の配送への影響を説明

 都内の小口配送については、上述の通り、キリンビール社とサッポロビール社の三社で共同配送を実施しており、東京2020大会対策としてどのようなメニューがあるか、各配送エリアにおける課題は何か等について2020年3月中旬頃まで協議・検討を行いました。三社で同一文面を得意先に案内しようとした矢先に、東京2020大会の延期が決まりました。

 その後、2021年春にかけて三社で再検討し、交通混雑の情報と、「リードタイム(時間指定)の緩和」と「配送の平準化」について取引先への協力依頼文を作成しました。作成した文書はメール・ファクシミリによる配信や配送時の乗務員による配布に加え、営業担当者が直接訪問し依頼をしました。

人の流れに関する取組――――――――

■会社全体でテレワークを推進、社内の制度としても確立

 2020年3~5月は、コロナ禍の影響により基本テレワークとしました。

 テレワークやフレックスタイム制等は、コロナ禍以前より社内の制度(月2回テレワークの実施等)として確立されていたため、スムーズに移行できました。

 2019年の「2020TDM推進プロジェクト」の共同宣言では、都内で就業している従業員約1,100人を対象にテレワーク等を推進することとしていましたが、コロナ禍の影響が大きくなるに従って、フル活用されるようになり、国が推奨する出社率削減の目標を上回る結果となりました。

■その他取組

 コロナ感染拡大期においては、本社への来客制限や接待等の原則中止・延期、社内の懇親の中止・延期、出張(海外・国内)の原則中止・延期についても社内で通達されました。

 コロナ禍の影響が落ち着いてきた2020年6月から若干の緩和はあったものの、2020年末にかけて感染者が増加したことを踏まえ、再度規制する形となりました。

 テレワーク下における経理等の伝票処理は、既に電子で処理する仕組みがあったため、これを活用しました。

 通常、グループ会社のアサヒドラフトマーケティング社にて料飲店のビールサーバーのメンテナンスを行っていますが、東京2020大会期間中はTDMの観点での対策として、サーバーの故障等の緊急事態が生じてもその対応が遅れる、又はできない旨を、都内23区の取引先に周知する予定でした。実際には、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に伴う酒類提供規制などにより、周知の必要はなくなりました。

東京2020大会を振り返って――――――――

 物流に影響が出れば、量販店に協力を得ながら深夜納品する等の取組も考えなければならないと思っていましたが、実際はそこまでの必要はないと判断しました。

 交通規制による影響は小口取引先ではありませんでしたが、首都高の交通規制の影響で、車両が外環道や一般道へ流れ、渋滞による影響が若干ありました。

 東京2020大会期間中は、配送における問題の有無や、翌日の物量や配送台数について毎日報告を受けるようにしていました。

 東京2020大会が無観客となり、取引先である飲食店等においても酒類提供の規制がかかったため、物量は想定より大幅に減少しました。

今後について――――――――

 東京2020大会における取組の総括については、これから行う予定です。

 「リードタイム(時間指定)の緩和」については、「中一日配送」を御理解頂いています。

 「付帯作業の廃止」については、ホワイト物流の推進の一環として、乗務員の環境改善に向けて運送会社と共に今後も進めていくことを考えています。

 また、「共同配送」については、東京2020大会に関わらず、物流の効率化や環境負荷低減の観点で同業他社とも協業していこうということで引き続き取り組んでいきます。

 人の流れについては、テレワークを基本とした新しい働き方「リモートスタイル」を標準化し、職種特性に応じた“多様な働き方”の確立を目指します。

 また、全国の営業拠点を集約化(55か所→26か所)するとともに、生産部門のリモートスタイル構築に向けた取り組みを推進します。

 伝票処理の電子化やその他報告・申請書類の電子化についても推進していきます。