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インタビュー

東京2020大会期間中のTDMの取組等に関するインタビュー

味の素株式会社

(2021年10月14日インタビュー実施)

 自社では、部門横断的なタスクフォースを編成し、オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)におけるリスク評価を行いました。その結果、最も大きなリスクを「人の流れ」と「物の流れ」に影響を及ぼす交通規制・交通渋滞と特定し、リスク対応を検討してきました。

 大会期間中のサプライチェーン・物流オペレーションの円滑化を図り、お得意先様への確実な商品配送を目指す為、首都圏を中心とするオリパラMAPに物流拠点と納品先をマッピングし、配送難易度と対応策のマトリクスを作成して、物流会社やTDM事務局と連携し、着荷主・納品先との具体的なアクションプランを検討してきました。2019年10月から支社営業担当者と最重点エリアである湾岸エリアの主要得意先約10社を回訪し、東京2020大会に向けて弊社対応策の説明、情報交換を行い、TDMへの協力を仰ぎ、2020年度初めの既存物流システムの変更を含む施策の検討等を実施しました。

人の流れに関する取組――――――――

■FAXや書類等の電子化推進により、難しいと考えられていた物流企画部のテレワークを可能に

 2020年2月、味の素株式会社本社内に日本地域対策本部を立ち上げ、新型コロナウイルスの感染予防に留意した働き方についての指針を策定しました。

 4月に最初の緊急事態宣言が発せられると、在宅勤務を原則とする働き方に勤務形態が変更されました。5月末に緊急事態宣言は解除されましたが、在宅勤務を基本とする働き方を継続し、10月前までに本社の出社率を平均で全体の2割ほどに抑えました。この時期、物流企画部の殆どは在宅勤務を行っていました。

 また、東京2020大会以前から請求書について郵送からPDF化してメールでの対応とし、コロナ禍の取り組みとしてFAXも自宅で確認できるようにするなど、手続きの電子化を進めました。物流企画部での在宅勤務は難しいと思っていましたが、これらの工夫により殆どの部員が在宅勤務可能となりました。

物の流れに関する取組――――――――

 自社では、2020年度初めには湾岸エリアの物流についての危機感を得意先とも共有していたので、顧客と協議をしながら既存物流システムの変更を含む施策を検討していました。

 東京2020大会期間中に実施した取組は、以下のとおりです。

■混雑が予想される地域への物流対策(クロスドック配送)

 特に湾岸エリア・千葉エリアの混雑が危惧されました。当初の対応策では早朝納品を検討していましたが、物流事業者事由により断念しました。

 混雑が予想される湾岸エリア周辺には、小ロットでの発注が多いお得意先様が多いため、効率的に配送を行えるよう“クロスドック配送”という取組を始めました。

 クロスドック配送は、複数の倉庫からの荷物をいったん別の物流センターに集め、保管はせずに荷物を合流させてお得意先様に出荷する取組で、配送するトラックの車両台数を少なくすることができ、1台当たりの配送件数を減らすことで効率的な配送が可能になります。物流事業者より提案を受けた施策で、東京23区で実施しています。

■海外生産品の前倒し納入

 欠品が許されない加工食品メーカー向けに海外で生産し輸入している製品について、前倒しの納入を行いました。通常の保管期間をさらに伸ばし在庫量を増やした為、スペースの確保・倉庫の運用に苦慮しました。

■得意先に大会時の配送への影響を説明

 「無観客での開催となった場合には交通混雑は発生しない」と営業現場や顧客には捉えられていた為、大会期間中どのくらい道路が混雑し、配送が難しいのかを事前に把握することは難しく、配送への影響について理解頂くことに苦労しました。

 最終的には物流事業者の判断を仰ぎ、物流への影響は少ないことを確認できたため、大会期間中のお得意先様への物流施策を行わないことを判断しました。

 東京2020大会期間中の物流会社のトラブルは皆無でした。

東京2020大会を振り返って――――――――

 大会関係車両や観客の交通需要の影響により、混雑が深刻化し安定した商品供給が困難となることが予想されたため物流施策を検討してきましたが、無観客開催が決定されたため、お得意先様にご協力を仰ぐことはございませんでした。

 2018年から2020年にかけて物流施策を検討する際に、交通規制や渋滞予測の情報がない中で、2020TDM推進プロジェクトのホームページや説明会等が非常に役に立ちました。また、着荷主に向けたメッセージ動画の撮影協力を頂くなど、東京都と連携した取り組みができたことは非常に有意義でした。

その他、加工食品物流における問題点・課題について――――――――

 物流の定義は、現場に到着し、荷を降ろし、受け渡したら相手側の対応というのが一般的ですが、加工食品会社の荷受け側の待ち時間は、商品別、賞味期限別に並び替える等の付帯作業があり、すごく待たされるところもあります。

 加工食品は賞味期限が最も重要であり、1/3ルールという、納品時点での賞味期間に係る商習慣があるため、納品期限が厳格となっています。商品は賞味期限ごとに管理しているため、検品も大変な作業となっています。パレットに置き、倉庫内に入れておくだけでは管理が大変なため、適切な情報管理や出荷時の情報発信などの取り組みが必要です。

 夏の特定した期間や年末などの需要期においては、量販店の店舗から荷受けのキャパシティとは関係なく、必要量の発注をしてしまうために、荷を受けられず納品を断られるケースもあります。この場合、物流が回らなくなってしまうため、顧客へ入荷量を調整するなど要請するとともに、物流企画部でも担当を付け、改善する活動を行っています。

 一年以上の賞味期限が確保されている商品は、商品の切り替え時期をうまく活用するなどして、積極的に賞味期限表示を月表示に修正しています。ただし、賞味期限表示は月表示にすることにより、期限が短くなるケースもあります。

 災害時等に納品遅延が発生した場合、日付の逆転が発生し、先入れ先出しのルールが守れなくなってしまうため、次回の出荷が困難になることがありますが、賞味期限を月表示にすることでこれが改善されます。

今後について――――――――

 現在、ホワイト物流やスムーズな物流等を目指し、問題をテーマ化して様々な対応や検討を行っています。これは、業界全体として取り組んでいることでもあります。

  • ▶ 附帯作業の削減
  • ▶ コードの標準化
  • ▶ QRコードの活用(商品コードや賞味期限をデータ化)。
  • ▶ 外装サイズの標準化
  • ▶ 事前に出荷情報をお客様に提供し、情報どおりの物を運ぶような仕組み
  • ▶ トラック予約システムの活用

 計画している様々な施策は、F-LINEプロジェクトや、SBM会議(食品物流未来推進会議)にて定期的に打合せを行い検証しています。

 2021年4月に「外装サイズ標準化ガイドライン」(加工食品分野に関わるメーカー、物流会社、卸、小売、業界団体等で構成する「加工食品分野における外装サイズ標準化協議会」にて作成)が作成されました。現在社内プロジェクトを立ち上げ、物流視点に立った外装サイズ標準化と日付情報を盛り込んだGS1 QRコードの導入へ向け取り組み中です。