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インタビュー

東京2020大会期間中のTDMの取組等に関するインタビュー

エバラ食品工業株式会社

(2021年12月1日インタビュー実施)

 関連会社の株式会社エバラ物流が、オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)による混雑対処の事前準備を行っていたことをきっかけに、様々な取組の検討を開始しました。その際に、2020TDM推進プロジェクトの紹介もありました。東京2020大会に向けて、交通規制等に関する情報収集を行い、月1回程度の会議で社内共有を進めました。

 G20のような国際会議開催時の交通規制等への対応を活かし、東京2020大会に備えて早めに対応する必要があると考えました。

 2019年4月にSCM(サプライチェーンマネジメント)部門を発足させ、今後想定される地震、台風、水害、大雪、津波、噴火、停電、伝染病、交通障害等の災害に対応すべく、様々な課題の洗い出しを行い、BCP策定に向けた検討を開始しました。

人の流れに関する取組――――――――

■在宅でもアクセスできる受注システムに変更

 物流現場では、物を取り扱うためテレワークは実施できませんでしたが、受注センターでは約10%、物流の事務部門では約20%の従業員がテレワークを実施していました。営業部門では、コロナ禍で顧客との対面商談ができないこともあり、必然的にテレワーク率は約30%超とやや高くなりました。

 本社の受注センターにおいては、テレワークのための設備や通信環境等が整っていない状況でしたが、コロナ禍により、その整備の速度を加速させました。また、新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から、一時的に受注センターを同じフロア内で二分割し、動線も完全に分け、従業員同士を接触させない対策も行っています。

 BCP対応の一環として、従業員1人に会社用と在宅用のパソコンを1台ずつ支給しており、在宅でもアクセスできる受注システムへの変更等、予算を投じてテレワーク対応できる仕組みを構築しました。また、派遣社員についても、派遣元と調整を行い、機器を貸し出すことでテレワークを可能にしています。

■時差出勤やフレックスタイム制によるオフピーク通勤の実施

 混雑時間帯を避けるため、時差出勤やフレックスタイム制を導入しました。

 現場で物を取り扱う物流・受注業務に携わる従業員は、顧客に合わせた勤務時間となるため、実施できませんでしたが、事務部門ではオフピーク通勤を実施していました。

■会議・商談のオンライン開催

 コロナ禍により、取引先との対面は不可という指針を揚げた顧客が大半となり、商談もオンラインで実施することになりました。

 デルタ株が終息しつつある現時点では、ほとんどの顧客と対面での商談が可能となっています。

 昨年夏のピーク時に於いては、工場側も感染に対して非常に警戒しており、工場の従業員以外は工場内に立ち入ることはできませんでした。現在は、当日朝に抗原検査を行い、陰性であれば対面での打合せ等が可能となっています。

 コロナ禍以前は、本社内外の従業員が集まって会議を行っていましたが、現在は、本社従業員は「三密」を回避しながら会議室に集まり、地方の従業員はオンラインで参加する形が定着しています。

■書類等の電子化の推進

 受注センターにおける紙媒体の削減のため、書類等の電子化には力を入れています。FAXで届いた書類をデータ化することで、テレワークを可能にしました。従業員は電子データを家で確認し、返信する形としています。

 請求書や納品書等は基本PDFで送付し、原本が必要な取引先には、後日郵送で対応しています。PDFを許容してくれる会社も多くあります。

 社外と比べると社内のペーパレス化は遅れていると感じます。書類の電子化は一部署の都合に合わせて実施するわけにはいかないため、全社で合意できてから開始する必要があると考えています。

物の流れに関する取組――――――――

■他社との連携による、空白区間をつなぐ「三角輸送」の実施

 2021年6月に、一般社団法人日本物流団体連合会主催の第22回物流環境大賞において「特別賞」※1を共同受賞しました。

https://www.ebarafoods.com/company/20210608_kyoudoukansenyusou_info.pdf

 現在、サッポロホールディングス株式会社と日本パレットレンタル株式会社(以下「JPR社」という。)と連携して、岡山エリア、大分・福岡エリアで三角輸送を実施しています。他にも縁があれば、他企業との連携も検討していきたいと考えています。

 三社連携のきっかけは、JPR社からの提案でした。それまでは、3社それぞれで手配して陸送を行っており、それぞれ片道で空車区間が発生していました。

 これまで、JPR社は岡山倉庫からエバラ食品の津山工場までパレットを輸送していましたが、帰りの輸送は空でした。同様に当社は、津山工場から福岡の物流センターの片道のみ、サッポロビールは大分の九州日田工場から岡山物流センターの片道のみという状況でした。この3社の運送ルートを繋いだ結果、三角輸送が実現し、CO2 排出量の低減を図ることができました。また、フォークリフトによる荷物の積み下ろしを徹底するなどし、ドライバーの労働環境改善と女性や高齢ドライバーが活躍しやすい運行を確立しました。この取組は今後も継続していきたいと思います。

引用:https://www.ebarafoods.com/company/20191211_kyoudoukansenyusou.pdf

(※1)以下の5 社の共同申請により行われました。
サッポロビール株式会社、サッポログループ物流株式会社、日本パレットレンタル株式会社、エバラ食品工業株式会社、株式会社エバラ物流

■関係協会を通じた情報共有・状況把握と、これに応じた臨機応変な対応

 一般社団法人日本加工食品卸協会より、3か月に1回の頻度でSBM会議(食品物流未来推進会議)の内容の共有や、リードタイムへの実験結果等の新しい様々な情報を提供して頂き、状況の把握に努めています。

 リードタイムの緩和について、協会が音頭をとり、業界大手2社で現在の午前11時から、午後1時に受注を締め切るという実験が行われました。結果は、効果があまりない反面、大きな問題もなかったと聞いています。

 今後は、スーパーマーケットからの発注が確定する午後3時を、受注締め時間の目標に進めたいという卸からの要望が強まると予測していますが、午後3時に締めて翌日に届けることは物理的に不可能であるため、1日のリードタイムをもらう形になると考えています。

 自社の工場は、栃木県、群馬県、岡山県にあり、うち、栃木県さくら市と岡山県津山市に工場併設のマザーセンターと呼ばれる物流センターがあります。この他、同じさくら市に北関東センターという大きな物流センターがあり、この3か所のセンターを中心に、協力工場からの商品が納品されます。群馬工場は、物流センターが併設されていないため北関東センターに納入しています。

 製品はマザーセンターから全国各地にある中間倉庫に移動し、そこから顧客へ配送しています。配送の状況によっては中間倉庫を使用せず、顧客に直接納品する場合もあます。

 予約入荷システムの構築は業界で進めており、特に、卸業界で積極的に取り組まれています。この取り組みにより、トラックの待ち時間の削減や、まとめて荷受けする際の検品レス、入荷商品の数と賞味期限等を電子的に事前に確認することができる等、問屋側とドライバー側の負担軽減が期待されています。

 納品遅延リスク回避については、天候等の状況によってフェリーの航路を変更したり、JRコンテナと陸送を使い分けたりする等、臨機応変に対応しています。

東京2020大会を振り返って――――――――

 会議等はオンライン化しましたが、オンラインは発表会や講演会には適している一方で、フリートークで活発に議論するような会議ではうまく活用できない等のデメリットがあると感じています。

 物流部門では、全員が100%テレワークすることは難しいということが改めて確認できました。よって、東京2020大会期間中については徹底した感染症対策が必要となりました。 仮に、新型コロナ感染者や感染の疑いの者が発生すると、濃厚接触者も含めて自宅待機となります。物流センターで自宅待機者等が増えると、現状でもぎりぎりの能力で回しているため、100%の配送能力が確保できなくなってしまいます。そこで、グループを3つに分けて対応を行いました。コスト面からもバックアップ施策が取りにくいため、大きな課題であるといえます。幸いドライバーの罹患者発生は抑えることができましたが、得意先では倉庫内でのクラスターが発生したケースはあったようです。

今後について――――――――

 本社における受注センターの分割配置は、コロナの感染拡大状況を配慮しながら元の状態に戻す検討を開始しています。

 テレワークについてはコロナが収束しても、BCP対応運用として受注センターの半数程度は継続していくことを検討しています。従業員の中には子育てや介護をしている人もいるため、出来る限り負担を軽減しながら働いてもらうことも目指しています。

 物の流れに関しては、現状、配送ロットがまとまっていない届け先も多く、配送件数が膨れ上がりドライバーへの負担が増加しています。自社はホワイト物流宣言もしており、ドライバーの労働環境や賃金等の再検討について真摯に対応する必要があると考え、東京2020大会を機に様々な実験を行っています。付帯作業についてのお断りはその実験の1つでしたが、一部の顧客からは反対の声もあがりました。実験としての感触は良かったので、時間をかけて協議を重ね、本格運用への障壁を越えていきたいと考えています。