日本電信電話株式会社(NTT)
(2021年11月10日インタビュー実施)
当初より、オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)の開催及びそのレガシーを見据えてTDMの取組を開始しました。
2018年の秋頃、東京2020大会の準備に向けてNTTグループ内の連携会議で、2020TDM推進プロジェクトへのグループ各社の参画を呼びかけるとともに、NTTグループとして実施可能なTDM検討を開始しました。東京2020大会のスポンサー会社だけでなく、それ以外のグループ会社も含めたワーキンググループを2019年に立ち上げ、どのような取組ができるかという議論を行いました。
「働き方の仕組みを変える」というグループでの取組は、東京2020大会がきっかけとなって実現に至りました。その後、コロナ禍もあり、これらの取組が定着しました。
人の流れに関する取組――――――――
従前よりテレワークを推進する流れがあり、テレワーク・デイズ等にも参加していましたが、実際には東京2020大会が取組の更なる推進力となりました。
設備・保守部門など、出社しないと成立しない業務もあるため、最初は、誰がどの業務ならテレワークができるかという考え方で検討を進めていました。しかし、コロナ禍となってからは出社が限られる状況となったため、テレワークができないのは誰か、できない業務は何かという観点での検討に変わり、検討が加速化しました。
テレワークのための機材は、グループ会社それぞれの業務や使用しているシステムに合った端末を各社で用意しました。
モニターやWebカメラ、マイク等は、部署単位で社員のニーズに合わせて準備を進めました。
■グループ全体の働き方改革として取組を開始
当初は未導入だったグループ会社も、テレワークを積極的に推進しました。
2019年夏のイベントにおいて、自社の出社率を50%以下に設定し、2019年夏の働き方推進の取組としてニュースリリース(出社率50%未満、時差出勤(8時前後の早出・10時以降の遅出)50%以上)をしました。
https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/07/18/190718a.html
■出社率の見える化により、課題の洗い出しを実施
緊急事態宣言中は出社率を2割以下と設定していたため、大会期間中は社内には殆ど人がいない状態でした。
一部のグループ会社については、保守部門やコールセンター等があるため、全社員一律での出社制限は設定していません。工事部門や保守部門等、現場に行かなければ仕事にならない業務もあるため、一定人数が出社するなどメリハリをもって取り組んでいました。
出社率は、各部署の実施状況を定期的に見える化し、フィードバックすることによって、リモートワーク率の低い部署・社員はなぜ達成できないのか、理由や対応策を探ることができる仕組みとしました。
グループ会社ごとにシステムや導入範囲は様々ですが、NTTグループの取組み例としては、勤務管理システムを導入し、業務で使用する端末のログイン・ログオフで勤務状況を把握しています。
■週1回のオンライン会議で、社員間のコミュニケーションを確保
テレワーク拡大に伴うコミュニケーションの問題は、それぞれのチームで検討しており、例えば、週一回はオンラインで定例会議をしたり、全員参加の会議を設定したりしています。
会議、研修、イベント、営業活動についても、その多くはオンラインで開催するようにしました。
お客様とのオンライン会議は、当初はZoomにするかTeamsにするかなど手間取る面はありましたが、慣れてくると移動が必要ないという観点でかなり有効であることをお互いに認識していきました。
緊急事態宣言が解除後も小規模での対面打合せも若干ありますが、社内会議も含めて原則オンラインが定着しています。お客様とのミーティングについても、重要な内容や挨拶を目的とする場合は対面とすることもありますが、そうでないものは基本オンラインで行っています。
■既存の在宅勤務制度を見直しし、柔軟なリモートワークが可能な制度に見直し
2020年10月より、月あたりの上限回数があるなど制限の多かった在宅勤務制度を、より制限の少ないリモートワーク制度に見直しました。併せて、従前よりコアタイムのあるフレックスタイム制度を導入していましたが、東京2020大会に先立ち、コアタイムなしのスーパーフレックス制度に拡充し、1日あたりの最低労働時間も3時間に引下げました。こうした見直しにより、働く時間と場所に関する制約が大幅に緩和され、例えば自宅にて朝と夜に分断して合計3時間だけ働くなどの働き方も可能となりました。出社する場合であっても、柔軟に出社時間を設定できるため、オフピーク通勤を実施できました。また、定期代の支給から通勤実績に応じた支給に通勤費制度も見直しを行い、よりリモートワークを基本とした働き方へのシフトを推進しました。
■グループ会社のシェアオフィスを提供
グループ会社のNTT都市開発が、「LIFORK(リフォーク)」というシェアオフィスのレンタルサービスの運営を通じて、会員法人が利用できる場を提供しました。
「LIFORK(リフォーク)」は、都内に5か所(秋葉原2か所、大手町、原宿、南青山)、福岡に1か所提供しています。
また、自社の社員向けにもシェアオフィスの利用を推進しています。NTT局舎等の自社施設を活用したNTTグループ社員向けサテライトオフィスの設置も始まり、2022年1月末時点で46拠点を開設しました。外部のシェアオフィスサービスも活用しながら、社員のオフィスと自宅以外の働く場所の充実を図っていきます。
■幹部率先の休暇取得による、社員が休みやすい環境づくり
従前より、夏季休暇や有給休暇の積極的な取得を推進しています。役員から率先してまとまった休暇を取得するなどして、社員も休暇が取得しやすいように配慮しています。
■業務DXに伴い、順次書類の電子化を推進
東京2020大会前より、業務のDX推進という観点から、会議用の資料は電子化して極力タブレット等で運用しています。
リモートワークの拡充により、会議の紙での資料印刷・配布が不要となったことも書類の電子化を後押ししました。
決裁書類等は既に電子化されており、一部のグループ会社においては契約書類も電子化しています。
契約・押印も含めて2022年秋にグループとしての電子化を宣言し、順次切り替えていく予定です。
■物品は会社全体で調整しながら一括購入
東京2020大会前から部署ごとに、一般的な文房具等、特別に必要なもの以外は、会社で一括購入して配布する体制となっています。備品は無くなったら補充するなど、全体で調整しながらの購入としています。備品購入は減少傾向にあります。
また、以前は社員食堂もありましたが、オフィス移転に伴い無くなりました。
■NTTグループのテクノロジーを活用した情報提供
東京都の「明日の混雑予報」においては、NTTグループのビックデータの技術を活用いただきました。
NTTドコモの携帯電話をベースとした位置情報にNTTデータが保有するGPSデータを掛け合わせることによって、都内や東京2020会場付近の混雑について、より精度の高い推定・予測情報を提供することができました。
東京2020大会が無観客となり、大きな混雑が発生しなかったため、利用シーンは少なかったと思いますが、大会を契機としたレガシーになったと思います。
■DXの推進をミッションと自覚し、「新たな経営スタイルへの変革」をプレスリリース
DXを推進していくことが当社の企業としてのミッションであると自覚し、2021年9月28日に、NTTグループとしての「新たな経営スタイルへの変革」をプレスリリースしました。
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/28/210928b.html
これは、自社の制度の見直しやIT環境の整備を進めていくことを改めて宣言をしたもので、具体的には、以下の取組を示したものです。
- ・ Work From Anywhere(自宅に限らず、どこからでもリモートで仕事ができるという働き方)を可能とするIT環境の整備
- ・ リモートワーク前提の業務の仕組み
- ・ 業務の自動化
- ・ 紙使用の原則廃止(請求書/受発注書含む)等
- ・ リモートワークにふさわしい情報セキュリティの体系化
- ・ オフィス環境の見直し
- ・ 職住近接によるワークインライフ(健康経営)の推進
※ 社員はリモートワークを基本とし、自ら働く場所を選択可能にする。組織を東京一極集中から地方に分散させ職住近接を実現する考え
これは、グループ全体としての恒常的な考えのもと、NTTグループとして宣言したものです。
物の流れに関する取組――――――――
■自社車両の交通量削減に向けた取組
自社は通信の工事車両を所有しているため、この扱いについてグループのプロジェクトで検討しました。
大会期間中は、交通制限エリアでの不要不急の工事削減などが行われるとともに、リモートワークの推進により、営業車両の稼働削減につながりました。
東京2020大会を振り返って――――――――
東京2020大会に向けて、パートナー間のやり取り等も含めて、同じ大きな目標に向かって企業各社の得意分野で協力したり、業種の垣根を越えて様々な企業と連携したりすることができました。東京2020大会のような象徴的なイベントは、TDMに限らず社会的課題の解決のための大きなきっかけになると実感しました。
社会的な課題の解決は、自社のみでは難しいということを改めて認識しました。企業各社が協力し合うことで、高齢化や地域活性化等いろいろな社会的課題の解決に繋げていけると思います。このため、東京2020大会終了後の継続的な取組・意識の定着が重要になってくると思います。
取組の検討・実施のプロセス自体がレガシーになると思いますし、自社としても今後の企業活動の中で活かしていきたいと考えています。
今後について――――――――
通信会社として、自分たちが率先してテレワークを進めながら、関係する皆様にウィズコロナ、アフターコロナにおいても安心して事業活動に取り組んでもらえるよう、各種プロジェクトを推進していきます。
NTTグループは、東京都の「明日の混雑予報」において、ビックデータ技術を活用して大会期間中の都内の人の流れを精度高く推定・予測することに貢献した。
まさに、東京都のスマートシティ構想につながる取組であり、今後活用範囲を拡大したいと思います。例えば、ウィルス感染のリスクの高い場所を把握しつつどこに対策を講じるか等の検討にも活用できると考えています。そのほか、災害発生時にどこで人々が留まり、どこへ案内したら安心・安全に帰れるかといった経路設計への活用等、様々な使い道があると思います。このように、「まちの見える化」することで、交通や災害・防災、コロナ対策、イベント等での有効性は高いと考えます。是非、今後も継続して、東京都とも連携していきたいと思っています。
また、物流面においてもDX化により、お客様の物流業務の効率化をご支援できるところが充分にあると思います。今後も、自社のテクノロジーをフルに活用することで、人流・物流の両面において、お客様のDX推進に協力・貢献していきたいと考えています。