郵船ロジスティクス株式会社(人事総務部総務課)
(2021年12月8日インタビュー実施)
オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」という。)の開催による外国人観光客の来訪や、交通機関の混雑等を見据えて取組の検討を開始しました。
2020TDM推進プロジェクトに登録し、メールマガジンによって情報を得られていたため、さまざまな検討を行うことができました。
人の流れに関する取組――――――――
■段階的なテレワークの導入
当初は、東京2020大会時の対策として、可能な部署からテレワークの導入を進めていました。その頃は全社員にノートパソコンを貸与する方針ではありませんでしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大によってテレワーク推進の機運が高まり、現在ではほとんどの社員がノートパソコンを貸与されています。
その一方、テレワークの導入・設定等を行ったIT部門では、その準備に非常に苦労したと聞いています。もともとノートパソコンを使用していなかった部署もあったため、導入も段階的にせざるを得ませんでした。また、機器の確保の他にも、大型モニターの購入や各社員の自宅へのWi-Fi機器の設置、ネットワークセキュリティの確保等を行っています。
その結果、本社部門では約8割、顧客からの連絡を受ける部署や都内の営業部では約4割の社員がテレワークを実施しています。
また、顧客との打合せや営業活動は、殆どがオンライン会議へと移行しました。
■オフピーク通勤(時差Biz)の実施
東京2020大会期間中の混雑を避けるため、オフピーク通勤を始めようと検討していましたが、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、感染拡大防止の観点から実施することになりました。
しかし、東京2020大会が無観客開催となったこともあり、オフピーク通勤はあまり広まらなかった印象です。制度自体は今も残り、現在も実施している社員はいます。
■計画的な夏季休暇の取得の奨励
もともと、当社には夏休みの制度として、6月~10月の間に5日間の休暇取得を奨励していました。その期間が東京2020大会期間中に重なっていたため、業務に影響のない範囲で、社員が個々に休暇を取得していました。
物流を担当している部門では、業務に影響が出ないよう、時期を調整ながら休暇を取得する計画を立てていました。
■民間のサテライトオフィスを契約
東京2020大会を見据え、民間のサテライトオフィスと契約を結びました。また、当社内の空きスペースを、サテライトオフィスとして利用できるように整備しました。
現在もサテライトオフィスを利用している社員はいますが、利用するにも外出をすることになり、それならば出社してしまおうと考える社員もいて、サテライトオフィスの取り組み自体はあまり広まらなかった印象です。
■書類の電子化の推進
DX(※1)推進や新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、実施可能なところから書類の電子化を行っています。
請求書はPDFでのやり取りが一般的になっていますが、契約書関連は様々なシステムがあり、全体の8割程度が対応できていないのが現状です。顧客から電子契約を求められることもあまりなく、徐々に増えてはいるものの、いまだに紙媒体でのやりとりが中心となっています。
一方で、取引先のIT系の企業では電子化が非常に進んでおり、当社のIT機器調達の契約は電子契約が多くを占めていました。
(※1) Digital transformationの略。デジタル技術を用いることで生活やビジネスが変容していくこと。
物の流れに関する取組――――――――
■顧客との調整による発注時期の調整
複合機で使用する用紙や文房具等については、東京2020大会期間中には注文をする必要がないよう、前もって通常より多めにストックするようにしました。
製造業と比べ発注する量は少ないと思いますが、物流業の梱包資材の発注調整も行っていました。
東京2020大会期間中は、発注を受ける量は想定より少なかったため、顧客側でも発注時期の調整を検討していた可能性はあると思っています。
■東京2020大会期間中の混雑を見越した配送時間の調整
当社は国際物流であるため、顧客に対して大手宅配業者のような細かい時間指定などはあまり行っていません。このため、大手宅配業者に比べると時間に余裕はあったかもしれませんが、大会期間中は配送が多少遅れる可能性があることは、事前にアナウンスして理解を得ていました。
海上輸送コンテナは、大井ふ頭周辺が東京2020大会の規制区域周辺であったため、港からコンテナで出発する貨物が渋滞に巻き込まれ予定時間に到着しないことや、港にコンテナで到着した荷物の出発が遅れる等の影響が想定されており、ドライバーとその都度、情報共有しながら調整を行うことで対応していました。
また、幕張周辺、航空輸送の拠点となる成田や羽田空港へアクセスする東関東自動車道も、東京2020大会が始まるまで混雑状況が読めませんでしたが、航空輸送においても、貨物が到着してすぐに離陸するような便は選択しない、また、通常であれば引き取った翌日に飛行機に載せる貨物を半日程度の余裕をもって引き取らせてもらうなど、時間に余裕を持たせる工夫をしていました。
大会期間中の混雑を避けるために、陸送を鉄道に変更することは考えていませんでしたが、顧客の要望によっては、港を変える等の対応は一部にあったかもしれません。ただし、配送手段の変更は顧客のリスクにもつながるため、可能であれば変更したくないというのが顧客の本音ではないかと推測しています。
■交通情報の事前共有
外部委託による社内便に遅延がないよう、委託先とスケジュールや時間の調整を行っていました。委託先には、東京2020大会会場周辺の交通情報を事前に共有していました。
東京2020大会の会場周辺交通対策の情報はとても役立ちました。規制区域の中に委託先の事務所があったものの、前もって状況を確認でき、事前に対策ができたので、非常に調整がしやすかったです。提供された情報は細かく、分かりやすかったと思います。
航空機については、東京2020大会へ参加する選手団は飛行機移動でしたが、事前に航空会社と連絡を取って情報を把握できていたので航空輸送への影響は少なかったと思います。
東京2020大会を振り返って――――――――
東京2020大会の延期や無観客開催がどの程度影響を及ぼしたのかは不明ですが、大会が開催される1か月前に交通規制情報の提供があったため、振り回されることなく過去の経験から対策を検討することができました。
サミットやオリンピック・パラリンピックを含むスポーツの国際大会は、世界中で多く開催されています。その度に物流が制約を受けることはありますが、世界中で情報が共有されるので、実施される都市の情報を把握し、その都度適切に対応しています。
今後について――――――――
テレワークの状況は、本社部門は現在も約8割の実施率ですが、営業部門では緊急事態宣言の解除以降、実施率は約2割と低下しました。
本社部門はテレワークを継続しやすい業務形態ですが、テレワークによって業務効率が落ちる面も一部あり、今後どのように取り組んでいくか現在協議しています。社内的にテレワークを中止するという風潮はなく、事業所ごとの事情に合わせて実施するという方針になるのではないかと思います。
利用運送業である当社では、船舶、航空機、トラック等の運送手段は保有しておらず、運送や輸出入に関する取次がメインの業務です。いろいろな輸送形態を利用しながら物流をアレンジしていますが、運送手段そのものは委託しています。そのため、現時点では2024年問題等の物流の労働問題には直接的な影響はありませんが、今後、多くの委託先から声があがった場合は大きな問題として対応をする可能性はあると思います。