令和元年度受賞企業インタビュー
スムーズビズ推進大賞 大賞
京浜急行電鉄株式会社
<運輸業, 郵便業>
受賞理由
これまでも「通勤時間をズラすオフピーク」に取り組んできた京浜急行電鉄は、新たに「列車種別をズラすオフピーク」出勤を提案。車掌がタブレット端末を車両の放送装置に接続して放送するときに非可聴音(人間の耳ではほぼ聞き取ることのできない音)を同時に放送、利用者のスマホでアプリを立ち上げ受信することで、ポイントが付与されるという、日本初の新たな仕組みを展開。こうした取組が、他社へ普及することも期待されている。
- ●普及啓発に関する取組:優等列車から普通列車へズラすオフピーク通勤(KQスタんぽ)
川崎、横浜・横須賀エリアから都心への通勤や、空の玄関である羽田空港を沿線に持つ京浜急行電鉄。今回のスムーズビズ推進期間に先立つ2019年7月1日より混雑率の低い普通列車での通勤を促進するため、特急列車等優等列車の混雑緩和を図る「KQスタんぽ」アプリの配信を開始し、平日上りラッシュ時間帯に普通列車を利用した方にポイントを自動付与する仕組みを立ち上げた。この画期的な取組について、発案者の一人で現・生活事業創造本部まち創造事業部 課長の濱田様、システム面から関わった鉄道本部運輸営業部営業環境デザイン課 課長補佐の鈴木様、「KQスタんぽ」アプリの今後を担う同課課長の髙橋様に話を伺った。
スムーズビズに参加した理由
京浜急行電鉄は、これまでも駅改札周辺や列車の混雑状況が確認できる機能や、通常の乗換案内に加え、エアポート急行と普通列車のみの乗換検索機能の「ゆったり電車で行こう」を搭載したアプリを配信するなど、混雑緩和を図ってきた。ある程度の効果は見込まれたものの、朝の通勤時間帯の上り特急列車の京急蒲田駅から品川駅までの混雑は、直ぐに解消されるものではない。
「ある日、その時間帯の普通列車に乗ったのですが、思いのほか空いていました。特急列車の乗客の一部をこの普通列車に分散させることができたら、混雑が大幅に改善されるのではと思いました」(濱田様)
どうすれば利用者に気づいていただけるのか、チームで案を出し合った。「駅の改札通過でポイント付与する」という手法も考えたが、それだと特急列車を利用した方にもポイントが付与されてしまう。混雑緩和に協力してくれた利用者に厚く応える方法はないか。そんな中で、人間の耳ではほぼ聞き取れない非可聴音(ヤマハ社が開発したSoundUD音声トリガー技術を使用した音声信号)をスマホアプリで認識させることでポイントを付与する手法を思いついたという。開発中にスムーズビズの取組が発表され、開発スケジュールはスムーズビズ推進期間に照準を合わせることで大幅に前倒しとなった。
取組に当たり苦労したこと
本社部門での基準外労働時間削減への取組は2010年から始まっていたものの、働き方改革や今回のスムーズビズの推進に取組むにあたり、実際に従業員に仕組みを利用してもらうまでには苦労があったという。
「フレックスタイム制度等の様々な制度を導入したものの、制度の内容が正しく伝わってなかったり、使い方がわからなかったりするケースが見受けられました。フレックスタイム制度の他、年次有給休暇の半日単位の取得や育児・介護休職制度等、様々な制度がある中、どのように制度を利用したら良いか、十分周知できていない状況があるのではないかと考えました」(髙安課長補佐)
そこで同社ではeラーニングでフレックスタイム制度の利用方法を再周知したり、各制度を組み合わせた具体的な利用例を従業員に周知するなどして利用者を増加させていった。各制度の仕組みと趣旨を改めて周知し、これからの働き方を従業員自身が主体的に考えるように努めたのだ。1つの結果として、定時である18時前に退勤した従業員は2018年度に比べて延べ361人増加したという。
「様々な制度を上手く組み合わせて、従業員が自分の働き方を主体的に考える環境を整えていきたいと考えています。特に本社部門は、自分で仕事の進め方を考える機会が多いため、オンとオフのメリハリをつけて自分の時間を創り出し、新しいことにチャレンジしたり、プライベートの時間を充実させたりすることで、従業員と会社の双方にとって良い結果となるよう取り組んでいきたいと思います。」(髙安課長補佐)
東京2020年大会のレガシーを目指す取組
「KQスタんぽ」を利用者に周知させるために、該当する駅にポスターを掲示したり、中吊り広告で露出。また、京急蒲田駅や平和島駅から特急列車に乗り換え利用する可能性のある方を、ピンポイントターゲットとして駅でチラシを配布したという。乗り換えずに普通列車で品川に向かっても、到着は最大でも16分しか違わないことを強調し、普通列車の方が空いていて快適に通勤できることをアピールした。そうした努力に加えマスコミで取り上げられたこともあり、導入から4カ月でダウンロード数は4,500人超と当初の想定を大きく上回った。このシステムの最大の利点は、導入するために新たな設備投資の必要がなく、既存の設備で対応できることだ。また、GPSを使用していないので地下でも使うことができる。
「たとえば、鉄道駅到着前にバスを利用する利用者に、バスと電車の両方でポイントを獲得できる仕組みや、他の鉄道事業者とのコラボ企画など、今後に向けて他部署や他社との連携を考えています」(髙橋様)
画期的な仕組みをカタチにした同社は、利用者に向けた取組だけでなく、自社社員向けにスムーズビズ推進期間にシェアオフィス利用のトライアルを実施。9月からは外部のシェアオフィスと契約し本格運用を開始するなど、働き方改革の推進にも注力している。
スムーズビズ推進者の声
関わった取組
「KQスタんぽ」の開発に初期から携わる
「KQスタんぽ」の開発開始当時はシステム会社に出向しており、システム側のリーダーとしてメンバーに指示を出していくという立場で開発に参加していました。その後、現在の部署
に異動となりユーザー側の立場になりました。
開発スケジュールがどんどん厳しくなっていく中で、実車両での実験で思った通りの結果が出ない状況が続き、実験に協力してくれた社員モニターや乗務スタッフから「こんなの使いものにならないよ」と言われたときは、さすがに落ち込みました。しかし、関係メンバーは日本初のシステムを自分たちの手で作り上げるという思いに溢れていて、彼らから刺激と元気をもらいました。関係者の努力の甲斐があって、システムは無事に完成し、7月1日から「KQスタんぽ」のサービスを開始できました。現在は次のステップに向けて、このシステムを活用して、どんなことができるのかを思案中です。